終わりの舞台へ
文字数 2,737文字
豊秩からの連絡を受けたあと。
一人にしていては危険だと判断した別乃世たちは、螺理多の探偵事務所へ急いだ。
豊秩の話では、夕方頃に螺理多と一緒に事務所に戻ったが、そのあとすぐに用事があると螺理多が一人で出掛け、それから何の連絡もなく戻ってこないとのことであった。
螺理多さんの状況が分からないので・・・
万が一、こちらから電話して、それが原因で螺理多さんの身に何かあったら・・・
螺理多の行き先に心当たりは?
どこに行くか、大まかにでも聞いてないか?
・・・分からないです。
ただ、昼間聞き込みをしていたときに、螺理多さんだけで話を聞いていたところがいくつかありますので、その時に何か情報を得て、そこに向かったのかも・・・
・・・行き先が分からないことには探しようもない。
螺理多のことだ、携帯の着信音は鳴らないようにしてるだろう。
とりあえず安否確認のメールを送って、今晩のところは様子を見るか?
よし、あとはベッドで横になっておけ。
螺理多からの連絡が来ないか、交代で見張ろう。
翌日の朝。
螺理多の携帯電話から一通のメールが届いた。
「この電話の持ち主は、今こちらで保護させて頂いております。
御手数ですが、下記の場所まで迎えに来て頂きますよう御願い致します。」
地図を確認してみます・・・!
・・・覚えはないですが、どうやら倉庫街のようです。
ということは、やはりただの親切な人が保護してくれているわけではなさそうだな。
ああ、俺たちも行く。
アーマは霊体の状態で来てくれ。
螺理多の事務所からタクシーで一時間ほど。
辿り着いたそこは、寂れた倉庫街であった。
これはまた、人気がない場所だな。
誘拐犯が潜伏するにはもってこいだ。
いっぱいあるが、どの倉庫か分かるのか?
ちゃんと地番が割り振られていますので・・・
もう少し奥に入った通りです。
これだけ広いのに、人が居ないのは不気味ですね・・・
このあたりは、ちょっと前まで工場地帯だったからな。
それが不況でどんどん閉鎖していって、住宅地として一斉開発された、その名残がこの倉庫街だ。
今でも使われているのかどうか、怪しいもんだ。
―――いや、相手があのシスターだったら、霊体の状態でも察知されるかもしれん。
俺と豊秩が正面から入るから、アーマはこっそり横から壁を抜けて、隠れて様子を覗っていてくれ。
その後の判断は任せる。
別乃世と豊秩が倉庫の中に足を踏み入れる。
中には木箱や麻袋が積まれており、その奥には、やはりあのシスターが待っていた。
ご足労頂き申し訳ありません。
―――やはり、あなた方の関係者でしたか。
失礼とは思いましたが、縛り上げた上でそちらの麻袋の上に転がって頂いております。
―――大丈夫。
先日申し上げたとおり、ただの人間に手出しは致しません。
これには少し事情がありまして・・・
実は、昨夜ちょっとした揉め事がありまして。
相手のお嬢さんには残念ながら逃げられていまいましたが、その現場にこの方が居合わせておりましたので、関係性をお聞かせ頂くために御同行頂いた次第にございます。
揉め事?
・・・何があったのか、よければ教えてもらえるか?
御存じでしょう?
ゾンビの集団と一戦交えておりました。
そうですか?
私も少し疑問に思っておりまして・・・
昨夜戦ったお嬢さんは、明らかにゾンビの群れの主格―――
その魔力も中級悪魔に匹敵するものでした。
対する貴方は、それほどではないにしろ何か不思議な魔力を感じます。
経験則で言えば、貴方も今回の件の主格であるべき存在です。
その昨夜戦ったゾンビというのは・・・
もしや若い、元気の有り余った感じの女か?
知り合いではないが、無関係というわけでもない、か。
だが、仲間ではないから居場所なんかは全く分からん。
・・・まぁいいでしょう。
私の疑問など然したる問題ではありません。
昨日のお嬢さんと貴方、関係は分かりませんが、両者共に「感染源」と判断し、浄化致します。
貴女の疑問については、僕が説明できるかと思います。
・・・縄脱けできるような縛り方ではなかったはずですが?
そこは探偵だから、ということで。
・・・さて、貴女の疑問というのはこうでしょう。
犯人となり得る容疑者は二人、しかし起こった事件は一つだけ。
本来ならば、二つの事件が同時に進行しているはずなのに、貴女が感知したのは昨夜のゾンビのみ。
これは一体どういうことなのか・・・
普通に考えるならば、可能性は二つ。
一つ、容疑者が結託して一つの事件を起こしている。
二つ、露呈していないだけで、事件は二つ起きている。
・・・そうですね。
ですが、二つ目はあり得ません。
この私が調査に乗り出したのです。
その時点で、悪魔を要因とする事件が起きていたとして、私がそれを見逃すことはありはしない。
ならば・・・
一つ目の可能性ですね。
ですがそれも、昨日の彼女らと今日の彼ら、雰囲気があまりにも違いすぎて共犯であるとは思えない・・・
そうではありませんか?
・・・もういいでしょう。
答えが何であれ、悪魔の魔力を感じるそこの彼を、悪魔祓いであるこの私が浄化しないこともまたあり得ないのですから。
結論は、何ということはありません。
昨日の彼女は人を襲って仲間を増やすゾンビ。
ここにいる彼は、人に危害を加えるつもりのないゾンビ。
―――それだけのことです。
―――ゾンビとは生に執着し、生を渇望し、それ故に生を貪る悪鬼。
人に危害を加えるつもりのないゾンビなど・・・
そんなもの、それこそあり得ない。
下らない戯れ言ですね。
人気の感じられなかった倉庫街に、突如車のエンジン音が響き渡る。
麻袋の山から飛び降り、駆け出す螺理多。
一瞬理解が遅れた別乃世を、引っ張る形で豊秩が外に向かって走り出す。
慌ててあとを追うシスター。
相手は訓練もされていない普通の人間。
普通に走って逃げるのならば苦もなく追いつく自信はあるが、先程のエンジン音は・・・
なんと、アーマが乗っている車が倉庫前に停まっており、別乃世たちが乗り込むところであった。
駆け付けるシスターを振り切り、アーマの操る車は急発進した。
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