悪魔を狩るもの
文字数 2,567文字
ビラ配りを終えて軽く食事を済ませたあと、オープンカフェで談笑していた別乃世たちは、探し人のひとりである守上・達人を偶然発見した。
―――やりました、見つけました!
事情を話して事務所に来てもらいましょう!
・・・いやまて。
様子がおかしくないか?
あれだけ分かりやすく着信音が鳴っているのに、なぜ出ない?
仮に今出たくないとしても、なぜ着信を切らずに放置している?
それすらしないということは・・・
自分が今、どこで何をしているのか。
その情報をできるだけ知られたくない、ということでしょうか。
実際のところは分からんがな。
何にせよ、普通に話し掛けたら逃げ出す可能性もあるんじゃないか?
・・・なるほど、たしかに。
分かりました、所長に状況を報告して後をつけましょう。
言うが早いか、鳴らし続けていた電話を切り、螺理多の携帯に電話を掛ける。
あ、所長!
実は今、守上を発見しまして。
ですが、ちょっと様子が・・・
・・・なるほど分かりました。
状況からいって、薬物か何かで意識が混濁しているのかもしれませんね。
うん、キミたちはそのまま尾行を続けてください。
僕もすぐにそちらに向かいます。
万が一、危なそうな人達が出てくるようなら、無理せずに尾行は打ち切ってください。
―――絶対に、無茶はしないように。
ご飯を食べていなければ、私が霊体化して見えなくなった上で様子を窺えたのですが・・・
ああ、いえ、女神さまの力をそんなことに使っていただくわけには・・・
いや、場合によっては必要になるかもしれん。
飲食物の消化・吸収に掛かる時間は、大体6時間程度だったか?
はい。
たった今食べたばかりですので、夕方頃まで掛かります。
行き先さえ突き止めておけば、あとはどうにでもなるな。
方角からすると、一応自宅に向かっているようですね。
そうこう話しているうちにも、守上は人気のない住宅街をよたよたと進んでいく。
・・・しかし、まったく人と擦れ違わなくなったな。
人っ子一人いない。
平日の昼過ぎですからね。
おかげで怪しまれることなく、ゆっくり付いて歩いていけるわけですし。
普通に歩いていたら、簡単に追い越してしまいますものね。
・・・あ、前から人が来ます!
ちょうど十字路ですし、角に隠れてやり過ごしましょう。
変わらずよたよたと歩みを進める守上。
前から来た女性も、構わず彼との距離を詰めていく。
・・・失礼します。
随分とお加減がよろしくないようですが、大丈夫ですか?
あの服装・・・
どうやら、唯一神教の教徒のようですね。
普通だったら、関わり合いになりたくないから見て見ぬふりするところですよね。
教会の人はやっぱり違いますねぇ、立派です。
声を掛けるのが正解かどうかは別問題だがな。
下手に関わって、命を落とすことになったら目も当てられん。
立ち止まって話し掛けてきた女性を前に、当然というべきか、守上も歩みを止めて女性と向き合う形となった。
しかしその身体は、歩いていた時と同じく左右にふらふらと揺れている。
顔色も優れておられませんね。
差し出がましいようですが、お手をよろしいでしょうか?
守上の手を取ろうと、女性が手を伸ばす。
そのやり取りの何がきっかけであったかは分からないが、守上は目の前の女性をようやく「認識」したようだ。
うめき声ともとれる、はっきりしない言葉を発しながら、両手を向けて女性に襲いかかる。
しかし女性はそれを軽くいなし、守上の右手首を掴んで捻り上げた。
女性は捻り上げた守上の腕を、僅かな躊躇いもなく捻り上げ切った。
守上の右肘の間接が砕ける音がするが、女性も、そして当の守上すらもまるで意に介さない。
何かを察した女性が、守上の腹に突きを叩き込む。
が・・・
見掛けによらぬ鋭い突きを腹に受けたにも関わらず、守上は怯みもせずに、女性を捕まえるべく両手を振り回す。
しかし女性の方も、これは想定通りであったようだ。
先ほど守上の言葉から感じ取ったとおり、殴った腹からは本来あるべき手応えがまるで感じられなかった。
つまり・・・
脈拍なし、痛覚なし、知識なし、・・・そして内臓なし。
低級なリビング・デッドと推定。
情報を得られる可能性なしのため、浄化します。
振り回される守上の腕を掻い潜り、鼻面を下から掌底で打ち上げる。
仰け反った守上の背後に回り込み、膝裏に蹴りを入れて跪かせる。
そしてそのまま手をかざし―――
―――神の御業よ。
神の威光を知らしめよ。
邪悪なる者に打ち克つ術を知らしめよ!
瞬間、守上の身体から黒いモヤのようなものが立ち上り、守上はそのままその場に崩れ落ちた。
ど・・・どうなってるのですか、これ!?
一体、どういうことなんですか!?
し、神秘術・・・
ダメです、早く逃げましょう別乃世さん!
あれは悪魔祓いです・・・!
―――神の御業よ。
罪深き魂を清め給え。
悪しき者を滅ぼす浄火の炎で清め給え。
突如、守上の体を青白い炎が包み込む。
炎は大きくなることはなく、見る間に守上を灰になるまで焼き尽くしたあと、静かに消え去っていった。
何が起こったのか分からず、事の成り行きを震えて見守っていた豊秩。
守上が燃え尽き、灰となったのを見目の当たりにし―――
ようやく理解が追いついた豊秩は、自ら意識せず、本能からくる恐怖により絶叫を上げていた。
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