契約・神秘の対価

文字数 2,855文字

螺理多と約束をした18時過ぎ。


別乃世たちは再度、螺理多の探偵事務所を再訪ねた。



あ、いらっしゃいませ。
あ、チラシを配ってらっしゃった・・・

今朝はありがとうございました。

いえいえ。

こちらこそ所長から「良いお客様を連れてきた」と褒められまして。


えへへ・・・

そうですか、それはよかったです。
―――やぁ、お待ちしていました。

さぁ、奥の部屋へどうぞ。

お邪魔します。
ああところで、豊秩さんが同席しても大丈夫でしょうか?

彼女はアルバイトとはいえ我が事務所の主力でしてね。


彼女にも、キミたちの事情は詳しく知っておいてもらった方がよろしいかと。


主力だなんてそんな・・・
私は構いません。

ですが、あまり言い広めないようお願いします。


場合によっては身に危険が及ぶこともあるやもしれませんので。

・・・それでもよろしいですか?

それは口外しなければ危険はない、と認識しても?
それで結構です。

さて、豊秩さんはどうします?


秘密を守れば危険はない。

ですが、万が一はあるでしょう。

本来ならば、関わるべきではないのかも知れません。


―――ですが、個人的にはキミには一緒にこの場にいてもらいたい。

きっとそれが、キミの糧になるでしょうから。

わ、わたしは大丈夫です!

同席させていただきます。

分かりました。

では、奥の部屋へ行きましょう。



奥の部屋へ通される別乃世たち。

そこは少し狭めの会議室となっていた。



ではアーマさん、約束のものをお願いします。

あの、何が始まる感じでしょうか。

・・・覚悟とか、いります?

ああそうだね、豊秩さんには説明しないとね。

彼女には「女神」を見せてもらうことになっているんだ。

「めがみ」というと・・・

あの、童話とかに出てくる神様の「女神さま」?

そのようだね。
・・・では始めます。



一息の間の後。


アーマの姿がわずかに揺らぎ、鈍い光を放ちながら質量を感じさせない「存在」となったことを、その場にいる全員が感じ取った。







これは・・・
わぁ・・・
これでいかがでしょうか。
随分ふわふわした感じですが・・・

失礼、お手に触れてみても?

どうぞお確かめください。

霊体濃度を下げておりますので、実体と霊体の中間ぐらいになっています。

確かに・・・

実体があるかないかの境目のような、不思議な感触ですね。

わぁ、すごい・・・本物の女神さま?

あの、あなたは何の女神さまなんですか?

私ですか?

そうですね、私はこの世界に囚われている魂を、別の世界へ導く女神。


「異界転生女神」アーマ・シュクレイムです。

別の世界・・・

つまり貴女は別世界の神・・・?

そうですね、それについては・・・


その昔、元はこの世界の神であったものが唯一神に敗れて異界に追いやられ・・・

その神々の末裔が私たち女神となります。

神に堕とされた異教の神・・・

なるほど、悪魔ですか。

そう呼ぶ者もありますが、私たちはあくまでも人々の幸せのために力を振るいます。

魔界に追いやられども、その神性は決して失っておりません。


ですので、我々は自らを「神族」と称しています。

なるほど・・・

失礼しました。

―――さて、これで女神の、そして悪魔の存在は信じていただけただろうか。

そうですね。

常ならざるものの存在、確かに見せて頂きました。


―――キミの言うことを信じ、依頼をお請けしましょう。

依頼・・・

そういえば、人探しでしたっけ?

―――ああ。

詳しい話はまたあとで。


先に別乃世さんとの契約詳細を詰めていきましょう。

そうだな。

お値段次第では話自体が飛んでしまうことになる。

そうですね。


報酬の件については、今回は必要経費のみでお請けしようと思います。

えぇ!?
所長、さすがにそれはちょっとやりすぎでは・・・

まぁまぁ。

良いものを見せて頂きましたしね。

これでまた、見聞が広がりました。


それに、別乃世さんの捜し求めているのは「特定の人物」ではないので、依頼完遂までの見積もりが難しいところがあります。

ゴールが見えない、ということだな。

そうですね。


そして終わりが見えない以上、僕としてもこの件にだけ力を割くわけにもいきません。

申し訳ありませんが、他の仕事と並行して行うこととなるでしょう。


その事情も含めての見積もりです。

何よりも、今急ぎの仕事が一件ありまして・・・

ああ、ビラを配っていた人探しか。

はい。

―――そこでです。


こちらの人探しにご協力頂けないでしょうか。

それと引き換えに、別乃世さんの依頼を無料でさせて頂きます。

なるほど交換条件か。

だが、手伝うといっても大した役には立てないと思うんだが・・・

大丈夫、大した仕事はお願いしませんから。


基本的には豊秩さんと一緒にビラ配り。

あとは情報提供があった際の現場での聞き込みなどをお願いします。

それぐらいなら問題ないか・・・

他に探すアテもないし。


―――どう思う、アーマ?

良いお話だと思います。

私も手伝わせていただきますので頑張りましょう。

よし、じゃあそれでお願いします。
決まりですね。

では早速明日からでも。


・・・ご予定は大丈夫ですか?

仕事も学校も何もないから大丈夫。
では明日の朝、9時頃に来てください。

豊秩さんの後輩になりますので、しっかり面倒を見てあげてくださいね。

あ、はい!

頑張ります!


わたしは豊秩・満子と申します。

お二人とも、明日からよろしくお願いします。

アーマ・シュクレイムです。

こちらこそよろしくお願いいたします。

別乃世・望だ。

よろしくたのむ。

別乃世さんとアーマさんですね。

一緒に楽しくやりましょう。


・・・そういえば、別乃世さんはどなたを探していらっしゃるんですか?


先ほど所長が「特定の誰かではない」みたいなこと言ってましたけど。

ああ、それな。

・・・言っちゃっても大丈夫?

多分大丈夫ですよ。

もしかしたら、彼女が協力してくれる可能性もあるでしょうし。

まぁいいか。

恥じ入ることなど何もないしな。

え?
実は悪魔と取引していてな。

真っ当な身体に戻るために、汗を提供してくれる女性を探している。

・・・はい?

汗、ですか・・・?

他の体液でも問題ない。

量を必要とすることから、おそらく尿が最も望ましい。

ああ、変態さんなんですね・・・
・・・・・・

そういえば、そのあたりの検証も行いたいですね。

どうなるものなのか、是非見てみたい。


・・・豊秩さん、提供をお願いすることはできませんか?

にょ、尿ですか!?
いえ、汗で。

何ならば唾液や血液でも。

だ、唾液もちょっと・・・

その中で一番マシなのは血液ですけど・・・

いや、待った。

できれば血は口にしたくない。

ふむ、一番理に適ったものであると思われますが・・・何か?
いや、何となくではあるんだがな。

取引した悪魔が言うには、俺は「人の血肉を食らって傷を癒すゾンビ」らしい。


事実、初めは激しい食人衝動に襲われたんだが・・・

最初に口にしたのが汗だったからか、それ以降は血肉に対する欲求はまるでない。


だが、一度血肉を取り込んでしまったら、再び人肉を欲するようになってしまうのではないかと・・・

なるほど・・・


ということのようですが―――

豊秩さん、どうでしょう?

嫌です。

無理です。

お断りします。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

【主人公】

 別乃世・望(コトノヨ・ノゾム)


現代社会への不満故に、軽トラに引かれることにより異世界に転生することを決意したポジティブ・ニート。


紆余曲折を経て異世界転生に失敗。

なんやかんやあってゾンビとなる。

【異界転生女神】

 アーマ・シュクレイム


時空神アナザを主神とする女神。

死に至る者の強い願いの力を使い、その者を異世界に転生させる。


別乃世・望の強い思いに呼応して降臨するが、思いの外即死に至らなかった別乃世が苦痛のあまり、異世界転生よりも傷を治して生き返りたいと思う願いを強めてしまい失敗。

機転を効かせてフォローに成功するも、その代償として神界に帰れなくなる。

アーマ・シュクレイム

(実体化)


食事によるエネルギー摂取のために霊体濃度を高め、実体化した姿。

服も霊体であるため、服装は自由自在である。


摂取した食料を消化・吸収・排出しきるまでは霊体には戻れない。

【操霊邪法悪魔】

 トリカラ・マイウー


別乃世・望を蘇生させるためアーマに呼び出された悪魔。

地獄の7大魔王サンダース・トゥモロウアース配下。

死霊を操る邪法を司る。


別乃世とアーマの要望を最大限に叶えるため、別乃世を「人肉を食らうことにより傷が癒えるゾンビ」にする。

トリカラ・マイウー

(実体化)


アーマのご飯を買いに行くために霊体濃度を高め、実体化した姿。

元が霊体であるため、角・羽根・尻尾・顔の傷などの悪魔的アクセントは出し入れ可能である。

【異端断罪天使】

 メンタイ・ハクマイナー


唯一神に仕える天使。


唯一神の縄張りである現世から魂を掠め取る異界転生、神の名を騙る邪女神、魂を弄ぶ糞悪魔、小汚いゾンビなど、神に逆らう有象無象の一切を許さず断罪する。

【エクソシスト】

 シスター・カッドロゥ


唯一神教徒。

メンタイ・ハクマイナーを守護天使とする悪魔祓い。

空手をベースとした体術と神秘術を組み合わせた戦法を得意とする。


街に増殖するゾンビの元を断つため派遣される。

【ゾンビ・クィーン】

 阿波津・怜子(アワヅ・レイコ)


街ですれ違った別乃世に因縁をつけて、連れの男にボコらせた極悪女。


お腹のすいた別乃世にがぶりとやられてゾンビとなるが、ちょっと噛まれた程度であったため屍にはならず。

人肉を食らう欲求とゾンビ感染能力を受け継ぎレッツ・パーリィする。

【探偵】

 螺理多・極(ラリタ・キメル)


螺旋のごとく捻れ絡み合う、幾多の世の理を見極めることを信念としており、その信念はときに利益や倫理をも度外視する。


理屈さえ通れば神も悪魔も許容する柔軟な思考の持ち主。

【探偵事務所アルバイト】

 豊秩・満子(トヨチツ・ミチコ)


螺理多探偵事務所のアルバイト。

年の割に落ち着いており、色々な話題に即座に対応できる感性の持ち主。


螺理多にはちょっとした憧れを抱いている。

通称ちち子。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色