on that day 女神の思惑/Diva Side

文字数 3,243文字

・・・別乃世・望が女神と悪魔に出会い、ゾンビとなったあの日の夜。







まぁ今はまずアーマの飯だ。

好きに見て回れ。


ただの庶民のスーパーだがな!

はい!



アーマの夕食を買いに来た二人だったが、アーマがもの珍しげに見回すため、スーパーの中をぐるりと回ることにした。



わぁ・・・

色々ありますねぇ。

アーマの住んでる神界とやらには、こういう店はないのか?

そうですね、市場などはありますが・・・

これほど多くの種類の食べ物は置いてません。

おそらく地獄も。


娯楽への多様性で言えば、人間が最も優れていると聞いています。

悪魔よりも娯楽への欲求が強いというのは誉められてるんだろうか。
言い替えれば、心に余裕があるということですからね。

神界も地獄も色々あるんですよ。

そういうもんか・・・

さて、何か食べたいものはあったか?

あそこにある串焼き、初めて見ました。

食べてみたいです。

焼き鳥か。

確かに神様連中は食べたことなさそうだな。

あとは、コロッケも色々種類があって美味しそうです。
コロッケ、好きなのか?
はい!
焼き鳥とコロッケか・・・
た、食べ過ぎでしょうか?
・・・いや、せっかくだ。

スーパーよりも商店街の方に行こう。

そっちの方が断然旨い。


持ち帰りできる店があるから、色々買って、色々食べよう。

え、でもいいんですか?

別乃世さん、食べられないのに・・・

俺のことは気にするな。


せっかくのチャンスなんだ。

思う存分食べておけ。

・・・じゃあ、その、お願いします。



スーパーから出た二人は商店街に向かい、アーマの欲しいものを見て回った。


結局、当初の要望どおり串焼き屋の焼き鳥、肉屋のコロッケなどを買って食べ歩き、さらにケーキ屋で色々購入して公園で一休みしていた。



・・・ああ、とっても美味しかったです。
それはよかった。
本当にありがとうございました、別乃世さん。

今度はトリィも一緒に回りたいですね。

そうか、じゃあ明日はトリィも誘ってみるか?
・・・あ、でもそれじゃあお金が・・・
大丈夫、何だかんだで世話になってるからな。

二人の食費ぐらいは何でもない。

そんな、悪いですよ・・・
もう散々食べたんだ、今更遠慮することはないぞ。
・・・食べ過ぎちゃいました?
構わん構わん。

・・・ケーキは食べないのか?

・・・これは帰ってから。

せっかくなので、トリィにも勧めてみようかと。


いっぱい買いすぎたといえば、一緒に食べてくれるかなぁと思いまして。

そうか。

・・・しかしなんだ、二人は本当に仲がいいな。

仲がいいかは分かりませんが・・・

私はトリィのこと、大好きです。

トリィもアーマのことは気に入ってると思うぞ。

色々気に掛けてる感じがする。

本当ですか?

それなら嬉しいです。

仲がいいのは、やっぱり学校の頃から?
・・・実を言うと私。

卒業後の進路、迷ってたんですよね。


女神には向いてないんじゃないかなぁって。

え!

でも悪魔はムリだろアーマは。

そうなんですよね。

女神にも悪魔にもならないとなると、神界と地獄の中間に位置する魔界に行くことになります。

もちろん、そういった卒業生もいることはいるんですが・・・


私の場合、立場上そういったわけにはいきませんで。

ああ、たしか親が主神だったか。
人の言うところの親とはおそらくニュアンスが違いますけどね。


アナザ様は、父や母ではなく「産みの親」。

固い言い方をすると、「造物主」となります。

なるほど、自由に造り出せる感じなのか。
主神にしかできないので、自由かどうかは分かりませんけどね。


まぁそういった事情もあって、私は神界に行くことが初めから決まってはいたんですが・・・

嫌だったと。


・・・しかし、「人を幸せにする」なんてのは、アーマにこそ向いてると思うがな。

あのときはそう言いましたが、実は最近の神界の考えは違ってきていまして・・・


もちろん、昔はそうだったのですが最近は成果主義といいますか。

いかに多くの魂をこちらに取り込めるかに重きを置く傾向にあります。

それはまた女神っぽくない・・・
そうですよね。

正直に言いますと、そんな神界の考えに私も嫌気が差しておりまして・・・


女神になったとしてもやっていく自信がなくて、どうしようかと悩んでいるときに話を聞いてくれたのがトリィでした。

それはそれでまた、悪魔らしくない。

ええ本当に。

異端同士で気があったのかもしれません。


ただ、トリィは地獄を快く思っていないわけではありませんので・・・

卒業後、地獄に来ることを勧められたりもしましたね。

それはまた、とんでもないことを・・・
正直、ちょっと迷いましたけどね。

悪魔が向いてるかというと、決してそうは思いませんが、トリィと一緒なら頑張れるかな、と。

・・・それでも女神を選んだんだな。
はい。

私はアナザ様によって産み出されましたので。

アナザ様の御期待に添えるべく、女神となる道しかありえません。

・・・進路について、アナザは何か言っていたのか?

いえ、何も。

強いて言えば「自分の好きなようにしなさい」と。

・・・なぁアーマ。

俺の、人間の勝手な考えなんだが・・・

アナザは、お前に神界に来て欲しいとは思っていなかったんじゃないか?

え?

いや、正確にはお前が望むのならば神界でもいいんだろう。

だが、そうでないのならば、それこそその言葉どおり「好きなように」していいんじゃないかな。

・・・なぜそう思うのですか?

アナザってのは、主神っていうんだからすごい神様なんだろう。

その神様が、アーマを「そのように」造ったんだ。


アーマが今の神界の方針に合わないというのなら、アナザも今の神界について間違っていると考えてるんじゃないかな。


その上で、アーマがどう行動するか、それによって今の神界をどう変えるのか。

―――それが知りたかったんじゃないか?

そんな・・・私には、分かりません。

いや、まぁ俺にも分からんがな。

人間の戯言と聞き流してくれてかまわん。


―――だが、「神界に行くしかない」ってのは違うと思う。

お前は、もっと自由に選択していいはずだ。


仮に、それが主神とやらの意にそぐわないのであったとしても。

俺はそれでいいと思う。

・・・・・・本当に?

―――さて、そろそろ帰るか。


トリィにもケーキを食わせないといかんしな。

奴が寝る前に帰らないと・・・

別乃世さ・・・

ぐぅぅぅぅぅぁ・・・!?



突如、苦悶の表情を浮かべて暴れだす別乃世。


振り回すその手がアーマの持っていたケーキの入った袋に当たり、地面に叩き落とした。



別乃世さん!?

まさか―――

・・・昼間の、比じゃないやつが、来る・・・!

ち・・・にく・・・、いや、ダメだ!


誰か・・・体液を、探さない、と・・・!

しっかり!

ああ、誰か・・・

何とかしないと・・・!

いや・・・これは、食ってしまう・・・

ダメだ、人は、呼ぶな・・・!

俺は・・・人は食いたくない・・・!

・・・・・・!




・・・数拍の後、アーマは覚悟を決めた。




別乃世さん!

こちらへ―――

む・・・!?



人気のない公園の、さらに人目につかない物陰の奥。


アーマは別乃世を引っ張り込んで、ぎゅっと抱きしめた。



今の私は実体化しています。

飲食も取りましたし、人と同じ肉体と考えていただいて結構です。

―――アーマ、お前、まさか・・・

―――私の汗を、その、どうぞ・・・お取り下さい・・・

それで衝動が収まるのであれば・・・私は・・・

だが―――



なおも抗う別乃世を、アーマはさらに強く抱きしめた。



―――大丈夫です。

私も、別乃世さんも。


・・・トリィはきっと怒りますから、内緒にしておいてくださいね。


―――きっとアナザ様も許して下さいます。

貴方がおっしゃったとおりの方でしたら・・・

・・・・・・!









―――どれだけの時間が経ったのか。

数分か、数十分か、それとも数時間か。


正気を取り戻した別乃世に、ほっとしたようなアーマの顔が眼に映る。



アーマ・・・

噛み付かなかったか?

―――はい。

あちこちべたべたにはされちゃいましたけどね。

・・・ありがとう、アーマ。

いいえ、私の方こそ・・・

貴方に逢えて、よかったです。


―――私の心は、本当に救われました。








…… for epilogue

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登場人物紹介

【主人公】

 別乃世・望(コトノヨ・ノゾム)


現代社会への不満故に、軽トラに引かれることにより異世界に転生することを決意したポジティブ・ニート。


紆余曲折を経て異世界転生に失敗。

なんやかんやあってゾンビとなる。

【異界転生女神】

 アーマ・シュクレイム


時空神アナザを主神とする女神。

死に至る者の強い願いの力を使い、その者を異世界に転生させる。


別乃世・望の強い思いに呼応して降臨するが、思いの外即死に至らなかった別乃世が苦痛のあまり、異世界転生よりも傷を治して生き返りたいと思う願いを強めてしまい失敗。

機転を効かせてフォローに成功するも、その代償として神界に帰れなくなる。

アーマ・シュクレイム

(実体化)


食事によるエネルギー摂取のために霊体濃度を高め、実体化した姿。

服も霊体であるため、服装は自由自在である。


摂取した食料を消化・吸収・排出しきるまでは霊体には戻れない。

【操霊邪法悪魔】

 トリカラ・マイウー


別乃世・望を蘇生させるためアーマに呼び出された悪魔。

地獄の7大魔王サンダース・トゥモロウアース配下。

死霊を操る邪法を司る。


別乃世とアーマの要望を最大限に叶えるため、別乃世を「人肉を食らうことにより傷が癒えるゾンビ」にする。

トリカラ・マイウー

(実体化)


アーマのご飯を買いに行くために霊体濃度を高め、実体化した姿。

元が霊体であるため、角・羽根・尻尾・顔の傷などの悪魔的アクセントは出し入れ可能である。

【異端断罪天使】

 メンタイ・ハクマイナー


唯一神に仕える天使。


唯一神の縄張りである現世から魂を掠め取る異界転生、神の名を騙る邪女神、魂を弄ぶ糞悪魔、小汚いゾンビなど、神に逆らう有象無象の一切を許さず断罪する。

【エクソシスト】

 シスター・カッドロゥ


唯一神教徒。

メンタイ・ハクマイナーを守護天使とする悪魔祓い。

空手をベースとした体術と神秘術を組み合わせた戦法を得意とする。


街に増殖するゾンビの元を断つため派遣される。

【ゾンビ・クィーン】

 阿波津・怜子(アワヅ・レイコ)


街ですれ違った別乃世に因縁をつけて、連れの男にボコらせた極悪女。


お腹のすいた別乃世にがぶりとやられてゾンビとなるが、ちょっと噛まれた程度であったため屍にはならず。

人肉を食らう欲求とゾンビ感染能力を受け継ぎレッツ・パーリィする。

【探偵】

 螺理多・極(ラリタ・キメル)


螺旋のごとく捻れ絡み合う、幾多の世の理を見極めることを信念としており、その信念はときに利益や倫理をも度外視する。


理屈さえ通れば神も悪魔も許容する柔軟な思考の持ち主。

【探偵事務所アルバイト】

 豊秩・満子(トヨチツ・ミチコ)


螺理多探偵事務所のアルバイト。

年の割に落ち着いており、色々な話題に即座に対応できる感性の持ち主。


螺理多にはちょっとした憧れを抱いている。

通称ちち子。

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