01
文字数 1,831文字
☆
今日もまた学校が始まる。美麗天音 はこの瞬間が好きでたまらない。
「おはよー、天音」
「すいせいおはよー。今日も顔が良い天音ちゃんだよっ。……みくもは?」
「どーせまたギリに来んじゃね? ほら、昨日、『ド田舎娘奮闘記』、やってたじゃん」
「あー! みーちゃんが出てるやつ!」
「そそ。それリアタイして、録画で2周目して、見逃しで3周するから、夜ふかししてたんだろ」
みくもはドラマが大好きだった。特に恋愛ドラマ。世界観に没入して、キュンとしたり、甘酸っぱさを味わうのが好きなのだ。色んな作品を見るだけあって、新興の女優や俳優に詳しいし、いつも学校にそれらの情報を運んでくる。一方のすいせいはあまりドラマを見なかった。どちらかというとテレビを見るときは専らスポーツ中継で、野球とかサッカーの世界大会みたいな、国民が一丸となってアツくなるあの感情を共有するのが好きなタイプだった。だから導入や伏線を追わないといけないドラマは苦手で、テレビを見ないときはスマホで30秒以内にオチが来るような動画ばかりみている。
趣味は合わないけど息は合う。美麗は、5年生になってから殆どの時間をすいせい、みくもの2人と過ごしていた。そして絡むようになって1週間で2人の趣味は完全に把握した。それは2人が大好きだからでもあるけど、別に美麗は2人だけに特別詳しい訳じゃなかった。
「はい、お前次オニ!」
「だる。今のはズルくないか!?」
男子たちが暴れまわって、来ていない子の机は重心の支えにされて音を立てながらその整理された位置から移動する。「男子、マジで朝から鬱陶しいわ」とすいせいが怒り気味にいう。美麗は、元気があって良いことだと思う。部屋を乱すのはよくないけど、2人は体を使って遊ぶのが好きな生徒だったから、朝からはっちゃけてしまったのだろう。こういうときは注意すればよい。
「もう、2人とも! 教室で鬼ごっこしちゃダメだって!」
「おっ、美麗もやんのか?」
「おい誂うと追っかけられるぞー?」
「ほんとに追っかけちゃうよ!」
むぅ、と美麗は頬を膨らませて怒る。体を少し動かせて、追っかけるフェイント。やべー、とはしゃぎ気味に2人は逃げていって、美麗が追っかける気はないと気づくと鬼ごっこ自体を辞めた。
「ほっとこうよ天音。2人は天音にかまってほしいだけだから」
「でもみんなの机が動いちゃうよ」
そうするうちにみくもが来る。
「あっ、みくも」
「みくもおはよー」
「おはよー、天音、すいせい。……え、なんで私の机ズレてんの」
「アホ共がおにごしてたから」
「天音が注意させて辞めさせたよ!」
「ガチでうぜえわ……。んなもん休み時間にしたらいいのに」
2人は男子、特にさわがしい連中と交わることは嫌がって、むしろ敵視しているくらいだった。美麗にはその感情が分からない。
クラスメイト、皆が仲良くなれば絶対幸せになるのに、と思う。
いつかクラスメイトの皆と友達になる、それが美麗の目標だった。今までの4年間は全て、これを成し遂げている。
十人十色というくらいだから、38人もいれば仲良くなるのも簡単ではない。たとえばいつも教室で静かに本を呼んでいる幣原篝火なんかは、話しやすいすいせいやみくもと対極にいるような存在で、美麗は中々声をかけられなかった。それでもいつかは仲良くなりたいと思う。彼女は確かバーチャルライバーが好きだったはずだ。星空繋 という名前だったと思う。
そんなことを考えながら大好きなクラスの全体を見回す。
ペンダントを付けた少女が、友達を談笑している。
––––愛宕紫陽 と、幽谷茉莉 。次に仲良くなるなら2人だと美麗は思っていた。愛宕紫陽は最低限の会話はこなせそうだし、幽谷茉莉は活発ですいせいやみくもと同じく話しやすい。2人はいつも昼休みを2人だけで遊んで過ごしている。いつかそこに混じってみたいと思う。
「そういえば今度あたしの家空いてるの! 2人とも来る?」
机の位置を直したみくもが言う。
「え、いつ? バレーなかったらいける」
「来週水曜日!」
「超アリ」
「天音もいける!」
「みくもん家はレアだなあ」
「たしかに〜、みくもの部屋見てみたい」
「ふふー、楽しみにしとけよ?」
みくもの唐突の提案により、来週水曜日にとても楽しみな予定が入った。同時に美麗は、この日の昼休み、2人に接近してみようと思った。楽しいことがある直前に大仕事をこなす。その日までに、2人のことをもっと予習しておかねばならない。
今日もまた学校が始まる。
「おはよー、天音」
「すいせいおはよー。今日も顔が良い天音ちゃんだよっ。……みくもは?」
「どーせまたギリに来んじゃね? ほら、昨日、『ド田舎娘奮闘記』、やってたじゃん」
「あー! みーちゃんが出てるやつ!」
「そそ。それリアタイして、録画で2周目して、見逃しで3周するから、夜ふかししてたんだろ」
みくもはドラマが大好きだった。特に恋愛ドラマ。世界観に没入して、キュンとしたり、甘酸っぱさを味わうのが好きなのだ。色んな作品を見るだけあって、新興の女優や俳優に詳しいし、いつも学校にそれらの情報を運んでくる。一方のすいせいはあまりドラマを見なかった。どちらかというとテレビを見るときは専らスポーツ中継で、野球とかサッカーの世界大会みたいな、国民が一丸となってアツくなるあの感情を共有するのが好きなタイプだった。だから導入や伏線を追わないといけないドラマは苦手で、テレビを見ないときはスマホで30秒以内にオチが来るような動画ばかりみている。
趣味は合わないけど息は合う。美麗は、5年生になってから殆どの時間をすいせい、みくもの2人と過ごしていた。そして絡むようになって1週間で2人の趣味は完全に把握した。それは2人が大好きだからでもあるけど、別に美麗は2人だけに特別詳しい訳じゃなかった。
「はい、お前次オニ!」
「だる。今のはズルくないか!?」
男子たちが暴れまわって、来ていない子の机は重心の支えにされて音を立てながらその整理された位置から移動する。「男子、マジで朝から鬱陶しいわ」とすいせいが怒り気味にいう。美麗は、元気があって良いことだと思う。部屋を乱すのはよくないけど、2人は体を使って遊ぶのが好きな生徒だったから、朝からはっちゃけてしまったのだろう。こういうときは注意すればよい。
「もう、2人とも! 教室で鬼ごっこしちゃダメだって!」
「おっ、美麗もやんのか?」
「おい誂うと追っかけられるぞー?」
「ほんとに追っかけちゃうよ!」
むぅ、と美麗は頬を膨らませて怒る。体を少し動かせて、追っかけるフェイント。やべー、とはしゃぎ気味に2人は逃げていって、美麗が追っかける気はないと気づくと鬼ごっこ自体を辞めた。
「ほっとこうよ天音。2人は天音にかまってほしいだけだから」
「でもみんなの机が動いちゃうよ」
そうするうちにみくもが来る。
「あっ、みくも」
「みくもおはよー」
「おはよー、天音、すいせい。……え、なんで私の机ズレてんの」
「アホ共がおにごしてたから」
「天音が注意させて辞めさせたよ!」
「ガチでうぜえわ……。んなもん休み時間にしたらいいのに」
2人は男子、特にさわがしい連中と交わることは嫌がって、むしろ敵視しているくらいだった。美麗にはその感情が分からない。
クラスメイト、皆が仲良くなれば絶対幸せになるのに、と思う。
いつかクラスメイトの皆と友達になる、それが美麗の目標だった。今までの4年間は全て、これを成し遂げている。
十人十色というくらいだから、38人もいれば仲良くなるのも簡単ではない。たとえばいつも教室で静かに本を呼んでいる幣原篝火なんかは、話しやすいすいせいやみくもと対極にいるような存在で、美麗は中々声をかけられなかった。それでもいつかは仲良くなりたいと思う。彼女は確かバーチャルライバーが好きだったはずだ。
そんなことを考えながら大好きなクラスの全体を見回す。
ペンダントを付けた少女が、友達を談笑している。
––––
「そういえば今度あたしの家空いてるの! 2人とも来る?」
机の位置を直したみくもが言う。
「え、いつ? バレーなかったらいける」
「来週水曜日!」
「超アリ」
「天音もいける!」
「みくもん家はレアだなあ」
「たしかに〜、みくもの部屋見てみたい」
「ふふー、楽しみにしとけよ?」
みくもの唐突の提案により、来週水曜日にとても楽しみな予定が入った。同時に美麗は、この日の昼休み、2人に接近してみようと思った。楽しいことがある直前に大仕事をこなす。その日までに、2人のことをもっと予習しておかねばならない。