06
文字数 1,651文字
5月22日 (月)
カワイくない月曜日の朝。廊下で袋を腕にぶら下げた美麗 がいた。
「おはよう。美麗。今日もカワイイな」
「おはよー……今日も愛おしい天音 ちゃんだ、よ……はあ」
美麗は、廊下の壁にもたれた。
「やっぱり、ちょっと緊張する。……みんな食べてくれなかったらどうしよう」
心配事まで、カワイイやつだと思った。天音のランドセルを叩いて、紫陽 は彼女の後押しをする。
「貴様ならいける。クラス1、いや。校内1カワイイんだから」
「うん……。ありがとう!」
決心をした美麗は扉に手をかける。引き戸の立て付けが悪くてスムーズに教室へ入るのは失敗した。
「お、おっはよ〜! 今日も素敵な天音ちゃんだよぉっ」
すいせい、みくも、菊池、小松は全員来ていて、一斉に彼女の方を見た。
「その、最近みんなに迷惑かけちゃったから……お菓子作ってきたの! すいせいやみくもだけじゃなくて、みんなで、食べよ。––––ほら、そこの2人も」
朝の教室には、美麗の声だけが響く。
「こいつのクッキーは旨いぞ。ほっぺが落ちてカワイくなるくらいだ」
「朝からクッキーパーティとか……最高かよ!?」
茉莉 がはしゃぐので、天音に対してカワイくない心象を抱く子もみな次第に集まってくる。本を読んでいた幣原篝火 さんは甘い物が食べられないと言って来なかった。
「おいしい!」「天音、お菓子つくれたんだ」「このクッキー形カワイイ!」「まあ、悪くないかも」など、それぞれが感想を述べ始める。
「みんな、ごめんね。天音は、1人でクラスみんなを仲良しにしようと思って、結果的にみんなを悲しませちゃった。紫陽ちゃんや茉莉ちゃんとだけ仲良くしようなんて天音思ってないし、やっぱり、すいせいとかみくもと居るときが天音は楽しい! ……あと、菊池さんとか小松さんとかも、私、邪険にしてるわけじゃないよ。いつも本読んでるけど、天音は本に詳しくないから、話しかけるのが難しくて。……知識なくても、仲良くしてくれる、かな?」
気づけばみんな、そのカワイすぎる美麗の話に耳を傾けている。紫陽はそのカワイさに感極まって号泣した。
「私達こそ、ごめんなさい!」
菊池と小松2人が頭を下げる。空気が、どんどんカワイくなってくる。
「その、美麗さんが美人だからって、私勝手に嫉妬して、それで、幽谷 さんには悪い風に言っちゃって」
「そういうことをやろうって言い出したのは菊池さんじゃなくて私の方だし、美麗さんに嫌な思いさせちゃって、本当にごめんなさい」
美麗は、カワイイ笑みをつくって2人に頭を上げさせた。
「これから仲良くしようよ! まだ、1学期は始まったばかりだし。すいせいとか、みくもとも、機会があればお話してあげて! それにね……天音のことは、天音って呼んでくれていいよっ!」
「「天音ぢゃーーーん!!」」
友情の美しさに紫陽は拍手を送る。すいせいやらみくもが、「やっぱり天音ってほんとカワイイやつ」とか言ったら美麗は頬を赤らめて、そんな彼女は菊池と小松に、そうだっ、と男性アイドルの話を振って、そうする間に茉莉がクッキーをほとんど平らげた。こういうところはカワイくない奴だった。幣原さんは気づけば読書を辞めて授業の準備をしている。
教師がやってきて、カワイくない1限が始まろうとしているけど、美麗の周りにはずっとカワイイ空気が漂っていた。
◆
下駄箱を開けた時、振った炭酸飲料みたいに封筒が溢れてきて、紫陽は思わず周りを見渡した。
「……誰も、いないな」
いくつかの封を開ける。
『愛宕さん。返事はまだですか? 私はずっとあなたのことを愛しています』とか『何が気に食わないんですか。私じゃ駄目ですか?』とか、とにかく同じようなことばかり書かれていて、カワイくない。
無性に気味が悪かったけど、これを茉莉に知られるのも何となくバツが悪い気がして、見張ってもらうこともできない。全ての手紙をランドセルに詰めて、家で捨てることにする。
これを書いたやつは環境に対してカワイくないやつだと紫陽は思った。
カワイくない月曜日の朝。廊下で袋を腕にぶら下げた
「おはよう。美麗。今日もカワイイな」
「おはよー……今日も愛おしい
美麗は、廊下の壁にもたれた。
「やっぱり、ちょっと緊張する。……みんな食べてくれなかったらどうしよう」
心配事まで、カワイイやつだと思った。天音のランドセルを叩いて、
「貴様ならいける。クラス1、いや。校内1カワイイんだから」
「うん……。ありがとう!」
決心をした美麗は扉に手をかける。引き戸の立て付けが悪くてスムーズに教室へ入るのは失敗した。
「お、おっはよ〜! 今日も素敵な天音ちゃんだよぉっ」
すいせい、みくも、菊池、小松は全員来ていて、一斉に彼女の方を見た。
「その、最近みんなに迷惑かけちゃったから……お菓子作ってきたの! すいせいやみくもだけじゃなくて、みんなで、食べよ。––––ほら、そこの2人も」
朝の教室には、美麗の声だけが響く。
「こいつのクッキーは旨いぞ。ほっぺが落ちてカワイくなるくらいだ」
「朝からクッキーパーティとか……最高かよ!?」
「おいしい!」「天音、お菓子つくれたんだ」「このクッキー形カワイイ!」「まあ、悪くないかも」など、それぞれが感想を述べ始める。
「みんな、ごめんね。天音は、1人でクラスみんなを仲良しにしようと思って、結果的にみんなを悲しませちゃった。紫陽ちゃんや茉莉ちゃんとだけ仲良くしようなんて天音思ってないし、やっぱり、すいせいとかみくもと居るときが天音は楽しい! ……あと、菊池さんとか小松さんとかも、私、邪険にしてるわけじゃないよ。いつも本読んでるけど、天音は本に詳しくないから、話しかけるのが難しくて。……知識なくても、仲良くしてくれる、かな?」
気づけばみんな、そのカワイすぎる美麗の話に耳を傾けている。紫陽はそのカワイさに感極まって号泣した。
「私達こそ、ごめんなさい!」
菊池と小松2人が頭を下げる。空気が、どんどんカワイくなってくる。
「その、美麗さんが美人だからって、私勝手に嫉妬して、それで、
「そういうことをやろうって言い出したのは菊池さんじゃなくて私の方だし、美麗さんに嫌な思いさせちゃって、本当にごめんなさい」
美麗は、カワイイ笑みをつくって2人に頭を上げさせた。
「これから仲良くしようよ! まだ、1学期は始まったばかりだし。すいせいとか、みくもとも、機会があればお話してあげて! それにね……天音のことは、天音って呼んでくれていいよっ!」
「「天音ぢゃーーーん!!」」
友情の美しさに紫陽は拍手を送る。すいせいやらみくもが、「やっぱり天音ってほんとカワイイやつ」とか言ったら美麗は頬を赤らめて、そんな彼女は菊池と小松に、そうだっ、と男性アイドルの話を振って、そうする間に茉莉がクッキーをほとんど平らげた。こういうところはカワイくない奴だった。幣原さんは気づけば読書を辞めて授業の準備をしている。
教師がやってきて、カワイくない1限が始まろうとしているけど、美麗の周りにはずっとカワイイ空気が漂っていた。
◆
下駄箱を開けた時、振った炭酸飲料みたいに封筒が溢れてきて、紫陽は思わず周りを見渡した。
「……誰も、いないな」
いくつかの封を開ける。
『愛宕さん。返事はまだですか? 私はずっとあなたのことを愛しています』とか『何が気に食わないんですか。私じゃ駄目ですか?』とか、とにかく同じようなことばかり書かれていて、カワイくない。
無性に気味が悪かったけど、これを茉莉に知られるのも何となくバツが悪い気がして、見張ってもらうこともできない。全ての手紙をランドセルに詰めて、家で捨てることにする。
これを書いたやつは環境に対してカワイくないやつだと紫陽は思った。