05

文字数 837文字

「しかし……」

 ようやく落ち着いた山奥で、ゴーグル越しに別府(べっぷ)に話しかける。幽霊と直接話すというのはなんとも不思議な感覚がする。

「その場の勢いで除霊は回避できたものの、これからどうする。このままここを彷徨う訳にも行かんだろう」
「あいつが会いに来てくれるなんて自惚れてた。……素直に、未練を1つ消化して成仏する。そうだな……タバコが吸いたい」

 別府はいきなりタバコの話をした。たしか茉莉(まつり)が初めて接触したときもタバコの話題だった覚えがある。そんなにあれは魅力的なのか。けれどそれで成仏できるなら楽な話だ。コンビニに行って買えば済む。

「でも私たちじゃタバコ買えないよ?」
「その通りだ。だから、信頼できる大人––––例えば井学(いがく)––––に買ってもらうとか、店員にこのゴーグルをつけて別府を見てもらうとか、そういう案を考えている」
「井学ちゃんは何かダリぃから、ゴーグルを店員にハメる案かなあ」

 女子小学生2人、山奥でタバコの買い方を模索。どのコンビニの店員ならやりやすいとか話していたら、近くから物音がした。

「え、なんか今聞こえなかった!?」
「幽霊か!?」
「別府が言うと妙に説得力がある」
「ここらへん、別府さん以外のお化けって出るの?」
「俺は見たことないなあ」
「もしかすると新入りお化けか」
「ならいいけど! クマとかだったらヤバくね!?」

 物音は次第に大きくなっていき、奥に影が見える。体がこわばって、息が荒くなる。人気のない山奥では、幽霊よりも生きたモノと遭遇する方がよほど怖い。

「あわわわわわわ」
「落ち着け。私はよく動物に嫌われる」
「それってクマにも効くの!?」
「知らん。だが逃げる可能性もあるぞ」
「2人が仲間になるのは嫌だ……。もっと生きてくれよ」

 そうして草をかき分けてきたのは、山登りらしからぬ落ち着いたコーデを身にまとう、綺麗な女性だった。ペンダントが軽く揺れる。

 そしてその綺麗な女性は他人ではなくて、紫陽(しはる)の完全に見知った顔で、

香澄(かすみ)……!?」

5年2組担任の教野(きょうの)香澄だった。
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