第36話夏子の復讐⑤

文字数 1,396文字

翌日、午前10時、蒲田の警察署は、和菓子店全焼及び老店主夫妻「自殺」として、記者発表を行った。

蒲田警察署長吉田俊之。
「誠に残念なことですが、昨日の和菓子店の火災と店主夫妻の死亡につきましては、借金を苦として心中自殺、その際に自ら店舗に火を放ったとの結論に至りました」

直後、取材記者たちから、質問が飛んだ。
「我々の社に、匿名ですが昨日の事件動画が送られて来ました」
「その動画によりますと」
「東都銀行蒲田支店の望月昇行員が、事件のあった和菓子店に入り」
「直後、ヤンキー風の三人の若者が、和菓子店に入り」
「東都銀行望月昇行員の前で老店主が土下座する姿」
「奥様が泣きすがる姿」
「ヤンキー風の三人がバールでショーケースを叩き割り」
「これは・・・灯油缶から・・・灯油」
「その後、ライターで火を」
「ですから放火殺人では?」

蒲田警察署長吉田俊之は、即座に否定した。
「偽動画と思われます」
「我々は公正で適切な捜査を行いました」
「その結果として、老店主は借金苦で店に火を放って自殺と断定を行いました」

別の記者からも質問。
「近隣の目撃者が多くて、その方たちにも取材しました」
「先ほど警察署長は偽動画と否定されましたが」
「報道各社に送られて来た動画と同じことを証言されました」
「それでも、蒲田警察は、否定されるのですか?」

蒲田警察署長吉田俊之は、表情を変えない。
「それも、あなた方マスコミの作り話でしょ?」
「警察を貶める目的があるとしか思えない」

蒲田警察署長と記者たちの問答が続く中、SNSと動画配信サイト、地上波テレビでも、「問題の動画」が拡散されていた。

テレビのワイドショーでは、コメンテーター(タレント)が発言。
「蒲田警察署は、あくまでも偽動画として処理するらしいですが、明らかにおかしいと思います」
「近隣の住民も動画と同じことを証言しているのに、認めようともしないなんて」

司会者は、別の情報を伝えた。
「その東都銀行蒲田支店の望月昇行員ですが、実家は茨城の取手、農家らしいです」
「その実家を調べた人からの通報では、最近、実の父に暴行を働き、その父は腰の骨を折って入院されたとか」
「銀行員でありながら、凶行を行うような性格なのでしょうか」

別のコメンテーター(ユーチューバー)
「SNSでは、別の情報」
「三人のヤンキー風の若者が近くのパチンコ屋の二階から降りて来る姿」
「望月昇行員が事件直前にパチンコ屋に入る目撃情報も」
「噂では振り込め詐欺の事務所とか」
「そうなると、望月昇行員は、振り込め詐欺とも関係している可能性がありますね」

司会者は、蒲田警察署の記者発表に、改めて疑念を述べた。
「あまりにもおかしな・・・」
「こんないい加減な捜査で、地域の安全を守る警察と言えるでしょうか」
「もっと言えば、警察と反社会的勢力の振り込め詐欺、それから東都銀行が結託していると思われても、不思議ではない」

コメンテーター(元東京地検検事、弁護士)
「確かに、その結託の疑いが強いですね」
「もしかすると、類似の事件をあちこちで起こしているかもしれない」
「銀行とヤクザ、警察がグルになれば、何でもできます」
「バブル期の地上げの仕組み、カタチと同じです」
「泣きを見るのは、いつも真面目な庶民です」
「暴力で土地も金も命も奪われ、捜査もされない」

他局のワイドショーでも同じような報道、SNS、動画配信サイトでも、恐ろしい程の非難炎上になっている。
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