第7話散らし寿司を食べながら 福田家と佐々木家

文字数 1,141文字

散らし寿司を食べながらの話題に、当初は「仕事関連」のものは、一切無かった。
陽平と真鈴のK大幼稚舎時代からの思い出話に終始した。

その途中で、陽平は、話題の転換を試みた。
「今日からここに住む」と言っても、陽平にも、最低限の準備はあるだろうと、思ったのである。(直属の秘書になるのだから、同居は納得していた)

「あの、一旦家に帰って、荷物を」

真鈴が、笑った。
「パソコンと洋服、本は、すでに搬入済み」
「それ以外、どうしても欲しいものは、週末に」

父の陽一も、母の美津子も、何も言わないで、笑っているだけだ。

健治が、陽平の顏を真っ直ぐに見た。
「もともと、東都物産は、福田家と佐々木家が、明治維新の時代に興した」
「交互に社長を出していたが、大正期の途中で福田家に男子が生まれない時期が続いた」
「それで、社長は佐々木家の独占になってしまったが、そもそも福田家は大株主だ」
少し間を置いた。
「次は、福田家にバトンタッチしようと、考えている」

陽平は、健治を幼稚舎の頃から、知っている。
やさしい「姉のような」真鈴の「お父さん」。

陽平を見ると、いつも抱き上げて、背中をポンポンたたかれた。
「大きくなったな、陽平君!」
「ご飯をたくさん食べて、もっともっと大きくなってね」
それが、健治の口癖だった。
そのまま何度も、このお屋敷に呼ばれ、ごちそうを食べて来た。

K大付属の小学校、中学、高校、大学。
入学するたびに、いろんな高価なプレゼントを貰った。
口数そのものは、多くない。
ただ、その発する言葉は、全てに、重みを感じる人だった。

「健治・・・とう様・・・いや、社長」
陽平は、子供の頃からの、「健治とう様」と言いかけたが、言い直した。

健治は、一同の顔を見て、苦笑い。
「そうだな、この家では、健治さんでいいよ」
隣で、真鈴が吹いている。

陽平は続けた。
「明治期からの関係は、知っていました」
「確認したいのは、社内で関係を知っているのは?」

健治は、やわらかな口調。
「経営トップの3人だけだ」
「私と根岸専務と大塚常務」

少し間があった。
「そうだな、飯を終えたら、二人だけで」
「何しろ、明日から役員室だ」
「コアな話もしておくよ」

真鈴が、また笑った。
「その間に部屋の準備をしておきます」

陽平の母(美津子)は、笑顔。
「真鈴ちゃん、陽平を頼みます」
「ふつつかな、息子ではありますが」

美津子の言葉に、真鈴は顔を赤くし、真鈴の母(佳代子)は、頭を下げた。
「会社にとっても、両家にとっても、大事な陽平君です」
「私も、陽平君が大好きで、赤ちゃんの頃から、ずっと私のアイドルでした」
「だから、お任せください」

健治が笑った。
「婿入りみたいだ、それだと」
陽平の父(陽一)も笑った。
「実質、そうかもしれんよ」

陽平は、真鈴との結婚の意識はないので、困惑している。
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