第64話陽平の悲劇

文字数 1,530文字

東都物産を追放され、実家に戻った陽平は、苦慮していた。
実家の周囲には、常に迷惑系ユーチューバーが数人うろつき、時々侵入しては、庭を荒らして帰る状態である。
(食べ残したカップ麺、缶チューハイ等のゴミも庭に捨てて帰る)

警察に通報しても、「お宅で処理してください」と、完全非対応。
陽平が怒って庭に出ると、迷惑系ユーチューバーはバイクに乗って「高笑い:馬鹿笑い」で逃げて行く、その繰り返しが続いた。
迷惑系ユーチューバーが逃げて行くと、暴露系写真週刊誌の記者が何人も寄って来る。
(断っても写真を撮り、東都物産と反社会的勢力との結託を、しつこく聞き出そうとする)

父陽一は日銀理事を「家族の反社会的勢力との結託」により解任され、退職金も不支給。
母美津子は心労から寝込んでしまった。
(かかりつけの医師に往診を頼んだが、「諸般の事情により」、と拒否され、薬もない)
ついに日用品の買い出しにも、出かけられない状態になった。
しかたなく、スーパーに配達を依頼するも、どこのスーパーも迷惑系ユーチューバーと、服装と目つき悪い暴露系写真週刊誌の記者を怖がり、配達に応じない。


ドームの事件と風間平蔵、由紀の不可解な入院から、陽平は、迷惑系ユーチューバーと暴露系写真週刊誌の記者は、おそらく「清水一家」と察していた。
(「清水亜里沙のクーデター」と、推測した)

しかし、母の実家の有馬組に助けを呼ぶのも、実に危険と判断した。
それこそ、敵対する「清水一家」と「有馬組」の激突。
陽平の家の周囲で、鉄砲、刀等での、血で血を洗う大抗争になる。
鉄砲と刀だけでは済まないと思った。
おそらく東京ドームのような爆薬使用も考えられるのだ。
「まさか無関係の近隣に迷惑をかけるわけにはいかない」

君澤浩二にも連絡を取った。(君澤浩二も一連の事件に絡んでいると察してはいたが)
しかし、予想通り、冷淡だった。
「今は組の立て直しで精一杯」
「それでなくても、あちこちで抗争の火の手があがっている」
「陽平も極道の血を引いているなら、自分の家ぐらいは、自分で守れ」

陽平は、懸命に耐え、打開策を考えるが、全く浮かばない状況が続いた。


芳樹は、陽平が東都物産を追放された時から、「苛め」に加担した。
清水亜里沙と協議し、清水一家の鉄砲玉(若衆)を迷惑系ユーチューバーと、暴露系写真週刊誌の記者に仕立て、うるさく、しつこく苛めた。
近隣のスーパーや、福田家かかりつけの病院にも、清水一家が圧力をかけた。
また、陽平の「風間組本家」への出入りを報じたのも、清水一家に関係が深い写真週刊誌なので、陽平の東都物産追放と佐々木真鈴との婚約破棄も、その苛めの結果である。
(ただし、佐々木真鈴が、あっさりと財務省主計局土屋智に「乗り換える」ことまでは、予測していなかった)

芳樹は、陽平の惨状が愉快でならない。
「何が次の日本の首領だ」
「会社を追われ、女は寝取られ、頼みの風間平蔵は、生ける屍」
「風間組の後継?それも笑えるが一人娘の由紀は、クスリ中毒で、これも生ける屍」

清水亜里沙は、芳樹の尻を叩いた。
「一気に潰したほうがいい」
「モタモタしないで」
「株の処置も済んだから」

芳樹は頷いた。
「福田家から土屋家に・・・土屋智にか」
(福田家は、東都物産役員会で、反社会的勢力との関係を問題視され、全株式の土屋家への譲渡を余儀なくされた)

清水亜里沙は、含み笑い。
「土屋智は従兄なの、見栄えはしないし、気は弱いし、才能も平凡そのもの」
「だから、東都を潰す時も、苦労が無い」

芳樹は、話を戻した。
「陽平は、今夜に処理する」
「灯油自殺、一家心中でいい」

清水亜里沙は、スマホをタップし、笑った。
「はい、仕掛け終わり、明日にはスッキリするよ」

‘(ただ、芳樹は、少し寂しさを感じていた)
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