第9話芳樹の失意と大恥

文字数 1,132文字

翌日の東都物産新入社員研修会の開始早々、芳樹は、また騒いだ。

「おやーーー?」
「陽平は腰抜けか?」
「な!わかるだろ!お前ら!」
「ちょっと因縁づけただけで、尻尾巻いて、研修にも来られねえ!」
「だから、だめなんだよ!都会の腰抜け男は!」

「まあ・・・俺を怖がって研修にも来られねえんだから」
「俺が総務だろうなあ!」
「いいか!お前ら、俺に従え!」
「少しでも歯向かったら、地方転勤か、クビだぞ!」

その大騒ぎに失笑が広がる中、人事部の杉村哲夫が、研修室に入って来た。

芳樹は、胸を張って、人事部杉村に迫った。
「杉村さん、陽平はどうしたんすか?」
「昨日のことで怖がって、入社辞退?」
「研修に無断欠席ですよね!」
「そんなヤワな奴は、採用取り消し決定してください」
「で、俺が、本来おさまる総務に」

冷ややかに、芳樹を見ていた杉村が、ポンポンと手を叩いた。
(研修室全員の注目が、杉村に集まった)

「福田陽平君は、無断欠勤ではない」
「ましてや入社辞退でも採用取り消しもあり得ない」

目を丸くする芳樹に冷ややかな視線を浴びせながら、杉村はゆっくりと発表した。

「陽平君は、社長付の秘書を拝命した」
「すでに役員室でレクチャーを受けている」
「つまり、もう仕事を始めている、ということだ」

その「発表」に、研修室がドッと沸いた。

「え・・・マジ?」
「それで令嬢真鈴様がお迎えに?」
「並みの関係ではないと思ったよ」
「社内マウントも何も・・・トップ直属か・・・恐れ多い」

「冷静で優しい人だから、狙っていたのになあ・・・」
「え?あなたも?」
「近づきたいなあ・・・」
「でも、役員室なんて、無縁だよ」

大騒ぎになる新入社員を、杉村が諭した。
「君たちも、東都物産の社史を、しっかり読むように」
「東都物産の創業者は、佐々木五平様と、福田陽蔵様」
「陽平君は、その大株主である福田家の直系だ」

杉村は、呆然となった芳樹には厳しかった。
「これ以上、大騒ぎすると、桑田芳樹の採用取り消しも、あり得る」
「とにかく、創業家の御子孫に、無礼と暴行を働いたことは事実だ」

芳樹は、震えながらも、懸命に反発した。
「俺は、高知の男だ」
「負けねえよ・・・そんな脅しに」
「いいか・・・いつか、必ず泣かせてやる」

ただ、芳樹の反発も、そこまでだった。
「海外事業担当」の講師が、研修室に入って来た。

人事部杉村は、海外事業担当講師に、「何か」を耳打ち、そのまま研修室を後にした。
芳樹は、結局失意激しいまま、海外事業の研修を受ける以外に、何も無かった。

また、芳樹は、W大卒と言っても、学業は度外視、野球漬けの生活を過ごして来た。
「英語」は、中学1年レベルの力も無かった。
講師からテキストを「読むように」指示されたが、何も読めず、研修室全員の失笑を浴びただけだった。
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