第21話陽平は芳樹に興味がない

文字数 1,134文字

芳樹が銚子の製紙会社倉庫に「捨てられる」前日、東都物産役員室では、杉田部長が呼び出されていた。

大塚専務
「桑田は、杉田君の肝いりで入れたんだろ?」
根岸専務
「入社前の事前研修では、W大野球部を自慢して、言いたい放題」
「陽平君の胸倉を掴んで怒鳴ったとか」
「かなり不躾で乱暴な男だ」
佐々木社長
「人事部からの情報では、英語力も無く、会計知識もない」
「そのうえ、体調不良で帰宅したはずなのに、W大近くの町中華で野球部後輩と酒を飲んで大騒ぎ」
「その後輩の中に、未成年もいたが、それを知って飲めと強要したとか」

責められ続け下を向いていた杉田部長が、ようやく顔を上にあげた。
「誠に申し訳ありません」
「私の息子とW大野球部時代の知り合いで、体力と根性はすごいものがある、ということで、推薦をしたのですが」
「野卑な性格だけは、見抜けませんでした」
「採用取り消しでかまいません」
「誠に申し訳ありません」

大塚常務は表情が厳しい。
「ただ、マスコミも騒いでいるし」
「下品な週刊誌のように白を黒とする報道をされても困る」
根岸専務
「恥ずべき、反省するべき行為ではあるが」
「一定の温情をかけるべきかもしれない」
佐々木社長
「杉田君、何か考えてくれ」

杉田部長
「私の地元の知り合いに声をかけてみます」
「一応、東都物産の関連子会社の下請けですが」
「小さな製紙倉庫です」

そこまで決まったところで、陽平が呼ばれた。
根岸専務
「例の桑田君の処分は、杉田部長に任せた」
「銚子の製紙会社倉庫に、関連子会社の下請けだ」

陽平は表情を変えない。
「彼については興味がないので、お任せします」
話題も変えてしまった。
「社長、今夜の外相との懇談資料は出来上がりました」
「中欧諸国の情勢分析、その中にルーマニア情勢とワインの生産量と出荷量予測を特に含めました」
「国際部の杉田部長にも、丁寧に指導をいただきました」
(陽平は丁寧に杉田部長に頭を下げた)(杉田部長も、ようやく安堵の表情になった)

大塚常務
「陽平君、ルーマニアにこだわった理由は?」
陽平
「特にワインの質が高く生産量も豊富で安価」
「我が社も、日本産と言い、高く売りながら、ルーマニアワインを相当混ぜているのが現状」
「ワインの場合、確かに最終的にボトルに詰めた国の製品になるのですが」
「難しいのは黒海の港情勢、例のウクライナ紛争で、いつロシアに占拠されても、不思議はない」
「そこで、どうやって輸送ルートを確保するのか、様々なプランや代替策が必要です」

根岸専務は頷いた。
「日本産ワインが人気と言っても、現実は日本のブドウだけでは、まかなえない」
佐々木社長は、満足げな顔。
「農業大国ルーマニア、美食と観光の国でもある」
「我が社も応援したい国だ」

東都物産役員室では、なごやかに話が進んでいる。
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