第24話東都銀行襲撃③

文字数 1,622文字

翌日午前中に、由紀と夏子は、東都銀行松戸支店に「客を装い」、入った。
いつもの学生服ではなく、OL風、濃紺のスーツ姿。
(スーツは、芳樹が銚子で働いている時間に、自主的に準備してあった)

入店目的は、「積み立てNISAの説明を聞く」とした。
由紀と夏子は、番号札を持ちながら、店内を見回した。
「暗闇でキス、ホテルに行った」中年男性行員と若手女子行員を探し、名前を確認することが目的である。

「幸運」にも、その若手女子行員が、由紀と夏子の前に座った。
ネームプレートは、「山下結奈」だった。(少しオドオドした感じ、新入行員らしい)
山下結奈のNISA説明は(勧誘ノルマも大きいので)勧誘の意図も強いが、実にわかりづらかった。

由紀と夏子は、下手な説明を、懸命に聴きながら、質問した。
「要するに株式相場連動ですよね」
「元本保証はなくて、損も発生する場合もあるんですよね」

山下結奈は、懸命に下手な勧誘を続けた。
「株式相場下落時こそ、・・・有利とも言えます」
「株価が下落時点で、積み立てをやめると、自分が積み立ててきた資産も値下がりします」
「一方で積み立てをすることで、安くなった投資信託をたくさん購入できます」
「いつか、株価が上昇すると信じるなら、下落時こそ割安になった投資信託をたくさん購入する最大のチャンスです」
「下落時がチャンスであれば、下落中は積み立てを止めて、株価が底を打った時から積み立てを再開した方が効率的だと考える方もいるかもしれません」
「確かに、株価が底の時にたくさん購入できれば、その後、株価が回復した時に利益を大きくすることができます。しかし、今が底である等の確定は、プロの投資家でも困難です」
「ですから、投資のタイミングは考えず積み立てを続けることが大切なのです。株価下落時でも積み立ては続けるべきと思います」
(ただ、マニュアルを読みながらの説明。タドタドしく、声も小さく聞きづらい)

夏子は、大きな声で反論を試みた。

「ねえ、もう少し、大きな声でハキハキとした説明が欲しいの!」
「それから、元本保証もないのに、積み立て続けろ?」
「今はバブルが弾ける寸前って専門家も多いのに?」
「前回のバブルが弾けて、今の株価に戻るのに30年かかったんでしょ?」
「今弾けたら、30年も、損をするんだよ、私たち!」
「でも、銀行は、知らんぷりするよね、私たちの損なんて!」
「儲かるのは銀行と株屋、そこから甘い汁を吸う政治家、大口投資家だけでしょ?」
「要するに庶民には損をさせて、大物には損失補填を好き勝手にするんでしょ?」
「逆に言えば、そういう甘い汁があるから、政府も銀行も株屋も、売込みに熱心なんでしょ?」
「金利は低いけど、普通に定期したほうが気楽だね」
「でも、こんな説明の東都銀行は嫌!」

山下結奈は困ったように、後方の席を見た。

すると、後方から中年の男性行員が出て来た。

ネームプレートには、「長谷部武」。(※山下結奈との不倫行員だった)
長谷部武は、にやけた顏で「いらっしゃいませ」と、お辞儀。
「山下結奈の説明不足で申し訳ありません」
「私から、もう一度説明をいたします」

由紀は首を横に振った。
「けっこうです、説明がわかりやすい銀行に行きます」
「実は、私の社内の部署全員15人ぐらいいるのですが、今日は二人で、代表して聞きに来ました」
「こんな説明ならパンフレットを読んだ方がわかります」

夏子は、椅子から立ち上がった。
「MBS銀行にも知り合いがいるの、そこに行こうよ」
「せっかく時間とって聞きに来たのに、こんな、タドタドしい説明なら、危なくて仕方ないもの」
(店内に響くような大きな声で言った)

あわてて、さらに上席らしき行員が寄って来たが、無視して、そのまま銀行を出た。

麻友は、夏子がスマホに録音していた「山下結奈とのやり取り」を、そのままSNSサイトに投稿した。
山下結奈の「あまりにもタドタドしい説明」が、一気に反感を呼んだ。
芳樹は、それを確認して、次の手順に入った。
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