第71話首相官邸

文字数 1,095文字

東京ドームのアイドルコンサート爆破事件の捜査は、全く進んでいない。
ドーム内の死傷者に対応しただけの状態であり、政府もマスコミも、ほとんど反応がない。

定例の官房長官記者会見も、日々平穏そのもの。
今日も、官房長官は、記者の質問に対して全く同じ答えだった。
「東京ドームでのアイドルコンサート爆破事件におきましては、死亡者約3万人、負傷者が約2万人になっております」
「不幸にして被害に遭われた方、ご家族の哀切を思うと、残念極まりないものです」
「悪辣にも、かかる非道な犯行を行った某宗教団体には、日本政府として外交ルートを通じて、厳重な抗議を行っています」
「ただ、その宗教団体は、無国籍であり、神出鬼没、なかなか交渉の糸口が見つからないのが現状です」
「それと、以前から、日本攻撃を累次に実行する、と示唆して来ておりますので、日本政府一体となり、警備体制の全般的強化を行っている段階です」

官邸付き記者からは、何の質問もなく、官房長官記者会見は、「無風」で終了した。


記者会見を終えて、官房長官は首相執務室に出向いた。
首相は、上機嫌だった。
「福田も佐々木も燃えたらしいね」

官房長官も笑った。
「そうですな、公安の調べでは、極道の内部抗争です」
「風間と清水が始めたらしいですな」
「東都も混乱はするでしょうが、清水が抑えるから心配ありません」

首相は話題を変えた。
「アイドルコンサートは、何もしない」
「あんなオタクがいくら死のうが、日本に影響はない」
「問題は、あちこちでテロをやられること」

官房長官は冷静に返す。
「機密費で対応します」
「ただ、小出しにしないと、つけあがるから、ほどほどです」

首相は、笑った。
「いいよ、バンバン出してかまわん」
「所詮税金で、人の金だ」
「日本を救えば、それでいい」

官房長官は、声を小さくした。
「選挙も近いですし」
「野党が欲しがって、うるさくてね」

首相は頷いた。
「昔と違って組合も弱い、人も金も集まらないからな」
「特にデモ団体は使い回しだ」
「沖縄から北海道まで、同じメンツでプロ市民、しかも高齢化」

官房長官はさらに声をひそめた。
「横浜の陳朱明から献金を受けました」
「20億です、本来は違法です」

首相は、ますます機嫌がいい。
「陽平君から聞いた」
「秘密は秘密でいいよ」
「バレるから違法になる」
「野党の・・・当選が危ない党首に1億渡すか?」

官房長官は、少し考えた。
「あの党は・・・内部分裂させます」
「あそこの幹事長が後輩ですから」
「因果を含めて」

首相は頷いた。
「陽平君も、要蔵先生に、似ている」
「裏工作の方が向いている、今の方が気楽かもしれない」

官房長官は、含み笑いで、首相執務室を出て行った。
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