第41話東都銀行頭取室②

文字数 1,255文字

総理との長電話を終えた頭取根岸久雄は、上機嫌。
「5月のヨーロッパ外遊に、同行して欲しいとさ」

副頭取大塚正は、眉をひそめた。
「のん気というか、極楽とんぼですな」
「金と汚れ仕事を我々に押し付けるばかりで」

頭取根岸久雄は上機嫌を変えない。
「陽平君と真鈴さんも同行する」
「あの二人の海外お披露目だとさ」
「国際金融資本や国連関係者との関係づくりもある」
副頭取大塚正の顏が緩んだ。
「確かに、それは早めにしておいたほうがいいですね」
「今後の日本財界のためにも」

頭取根岸久雄が真面目な顔になった。
「陽平君には、ロシアも接触を内々に打診しているようだ」
「陽平君の、ロシアに対する考えも探りたいとか」
副頭取大塚正の眉間にしわがよった。
「確かに東都グループの次期当主」
「その考え次第で、貿易量が変わる」
「下手を打てば、ロシアは国難、貧困国になりかねない」

頭取根岸久雄は、厳しい顔を変えない。
「でも、万が一あると、東都グループ全体の将来もなあ・・・」
副頭取大塚正は、腕を組んだ。
「テロですか・・・でも、そこまでするでしょうか」
「当面の混乱は、あの国も望まないはず」
「ただ、裏の組織にも、話を通じておく必要がありますね」
「備えあれば患いなしです」

頭取根岸久雄は、頷いて話題を変えた。
「風間の御大からも電話があった」
副頭取大塚正の顏が蒼くなった。
「何か大抗争でも?」

頭取根岸久雄は首を横に振った。
「陽平を頼むと」
「まあ、東都グループの主だった顏全員に対してだ」
副頭取大塚正は、再び表情を緩めた。
「日本最大の裏組織の首領、風間平蔵様でも、孫の陽平は可愛いと」

頭取根岸久雄は、目を閉じた。
「陽平君のおじい様、政治学の福田要蔵大先生は、若い頃、風間組にずっと居候」
「その際に、風間組の首領の次女彰子様と恋仲に」
「彰子様と、そのまま結婚、陽平君のお父様、陽一さんが生まれた」
「だから風間の御大にとって、陽平君は可愛い外孫だ」

副頭取大塚正が続いた。
「陽一さんの奥さん、つまり陽平君のお母さんは」
「関西最大の裏組織、有馬組の一人娘でした」
「学問ばかりで、なかなか結婚しない陽一さんを心配して」
「風間組の御大が、有馬組のトップに打診し、そのまま決めてしまった」

頭取根岸久雄は苦笑い。
「だからさ、陽平君って、日本の表でも裏でも、最大の次期当主だってことさ」
「アメリカもヨーロッパもロシアも、全て調べ上げているから、その性格と考え方を知っておきたいんだろうね」

副頭取大塚正は陽平の顏を思い浮かべた。
「陽平君は頭も切れるし、格闘も組織に鍛えられています」
「それでいて、慎重に抜かりなく動く」
「決める時には、スパッと決める、速い」

頭取根岸久雄
「真鈴さんは、小さな頃から陽平君の、お嫁さん意識満々だったね」
「どんな集まりでも、必ず隣に座って」

副頭取大塚正は、口元を緩ませた。
「私はねえ・・・あの二人が並ぶ姿を見るのが好きで」
「どんな時でも、癒されましたよ」
「見ているだけで、将来は安泰だなあと」

東都銀行頭取室は、いつの間にか陽平と真鈴の、楽しい話に変わっている。
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