第67話土屋智

文字数 1,216文字

陽平の失脚と失踪の数日後、東都物産は、財務省主計局から土屋智(30歳)を、佐々木健治社長付き秘書として迎え入れた。
同時に、社長の娘佐々木真鈴との婚約を、社内外に大々的に発表した。
(5月の首相外遊に、二人とも同行することも決まった)


呆れ顔の芳樹に、清水亜里沙は意味深な顔で笑った。
「智は、前にも言ったけどさ、従兄なの」
「だから、清水一家とも関係が深い」
「知っての通り、親が東都物産の役員」
「東都物産と財務省の関係も深いから、呼びやすかった」

芳樹が頷くと、清水亜里沙は続けた。
「智は、一言で言うと、バカなの」
「まるでガキ」
「プライドだけは高い、今でも身の回りのことを、自分でできない」
「全て母親任せ」

芳樹は笑った。
「さすが、従妹だね、遠慮がない」
「嫌いなのか?」

清水亜里沙は、プッと笑う。
「嫌い・・・というか、子供の頃からコケにしていたから」
「清水一家の集いに来ても、ガン無視」
「だって、何やらせても、トロ臭い」
「度胸はないし、頭も悪い」
「小学生の頃、一度、突っかかって来たから、殴り飛ばしたの」
「大泣きになって、立ちあがれない、年上のくせに」
「それを智の母親が慌てて抱き起して・・・」
「でも、私は組長の娘、謝らないし、土屋家は子分だから文句は言わせない」

芳樹は、再び呆れた。
「陽平とは、大違いだな」
「あいつは、頭もいいし、度胸もあった」
「喧嘩は強そうだった」

女子高生たちも、話に加わった。
麻友
「その婚約もつぶすの?」
夏子
「土屋智のボロを暴き出してつぶすのかな」

「亜里沙姉さん、考えはあるの?」

清水亜里沙は、少し考えた。
「社長付き秘書と言っても、名前だけになると思う」
「とにかく、仕事は出来ない男」
「財務省主計局でもミスが多いので、実は厄介払い」
「東都物産役員室も、バカではない」
「財務省の顏を立てる目的と、親が東都の役員だから、あてがっただけ」
「席に座らせているだけで、仕事はさせないかもね」
「だから、仕事そのもののミスとか、ボロは漏れて来ない」
「女性秘書とか女性社員のお尻を触るとか、セクハラするぐらいかな」
「なにしろ、30になるまで、彼女は一人も出来なかった」
「不細工で、小心者でトロくさいから、女はよりつかない」

芳樹は、清水亜里沙を目で制した。(目と目で気持ちが通じる関係になっている)
「いいよ、何もしない」
「そんな奴つぶしても面白くない」
「東都本体を苛める算段を考えたい」

その芳樹の太ももを、麻友が撫でた。(芳樹は不意打ちで、ビクッと震えた)
「芳樹、私たちは、そういう上級国民を苛めたい」
夏子も続いた。
「真鈴って女を泣かせたい、何か気に入らない」
茜は怒っている。
「陽平から、そんなバカ男に簡単に乗り換えた・・・実は打算しかない女かも」

芳樹、少女たちの気持ちを受け入れた。
「真鈴の個人攻撃をする」
「結果として、東都にも、土屋智にも、捨てられた陽平にも、いろんなショックが起きる」

(清水亜里沙は、芳樹をさらに気に入ってしまった)

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