第28話 クズでも魅力的

文字数 1,062文字

 結局、羽央と蒼花の勝敗はつかなかった。
 タイムアップで二ゲーム目は終了した。

「面目ない」
 キングの男子が謝るも、

「やー、気にすることないよ」
 蒼花は首を振る。

 他の大駒も軒並みやられているものの、勝敗が決した訳ではない。

「ごめんなさい、お姉さま……」
 草皆は辿りつけないまま、倒されていた。

「別にいいよ。でも、そのお姉さまはやめてくれたまえ」 
 羽央に聞かされたことを思い出し、蒼花は苦言を漏らす。
「そんな

したって、藍生君は見てくれないよ?」

 傷つけたのがはっきりとわかった。
 あの男はよくも平気でこんな真似ができるものだと、蒼花は内心で呆れ果てる。

「……あ、そ、んなことは……」

「気付いたのは藍生君だ。笑いながら、きみのそれは演技だって……」
 自分の興味を引く為だと、羽央は事もなげに言ってのけた。
「でもまっ、彼を好きになるのもわからなくはないよ。目立つし……決めるとこは、きちっと決めるからね」
 
 羽央は汚れ役を厭わなかった。誰が相手であろうとも、どんな空気であろうとも怯まないで口火を切ってくれる。
 一緒にいた頃は思いもしなかったけど、それは本当に凄いことである。
 現に、蒼花はなにも言えなかった。
 見て見ぬふりしかできなかった。
 転校先で出くわした陰湿なイジメ。担任の教師が黙認していたものだから……なにも言えなかった。
 
 言い訳だ。
 羽央と別れてからは、目を逸らしてばかりいた。
 だから、羽央に会いたいとは思わなかった。
 正確には、合わす顔がなかった。
 
 だって、彼はなに一つ変わっていない。粗い画面越しでもわかる。あの締まりのない笑顔と軽すぎる唇が、目に浮かんでくる。
 
 ――おかげで、吹っ切れた。
 
 かつての自分を――自惚れかもしれないけど、強かった自分を取り戻そうって思えた。それに拘るあまりに受験には失敗してしまったものの、後悔はまったくない。
 羽央と会えたからではなく、素直に会いたいと思えたから。昔のように触れ合うことに、なんの抵抗も罪悪感も覚えずに済んだからだ。

「私が知っているだけでも……三人いる。彼を好きだった女のコはね」

「……功刀さんはどう、思ってるんですか? 藍生君のこと……」
 噛みしめていた草皆がゆっくりと、唇を解いた。

「そうだね……好き――だったよ」
 蒼花は少しだけ考えて、白状した。
 もう、過去のことだと。
「今は嫌いじゃないけど……あの頃には、全然届かないんだ」
 
 蒼花は困ったようにはにかむ。
 彼の秘密に気付いてしまってからは、素直に好きと思えなくなっていたのだった。


 
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登場人物紹介

 Aー3(一芸入試組)、藍生羽央(あいおいわお)

 とにかく喋って、喚いて、煽って大多数を敵に回すことを好む。

 それでいて孤立せず、味方を得られるほどにはハイスペック。また強かな性格であり、負けるのも厭わず平然と大人に頼ることもできる。

 その為、一部の人間には誤解から好かれることもしばしば。

 だが幼馴染を含め、誰もが最終的にはクズで人でなしと詰るほど、どうしようもない男のコ。

 好きな言葉は『正当(過剰)防衛』

 Jー2(中高一貫組)、二穴満子(ふたあなみつこ)

 羽央の幼馴染だが、周囲からはその事実が不思議に思えるほど内気な性格。

 ただ、そんな内面とは裏腹に外見の自己主張は激しく、老若男女問わず威圧感を与えるほどに色々とでかい。

 もっとも、名前を含め本人はそのことにコンプレックスを抱いている。

 同年代では唯一、羽央の秘密――アイデンティティを知る存在。

 好きな言葉は『二人だけの~』

 A-1(進学コース)、上岡希久(うえおかきく)

 羽央や満子とは小学校からの付き合いで仲良し。二人とは対照的に――いや、平均的に見ても背が低いものの、マスコット的な可愛らしさはない。

 特に、羽央に対しては激しいツッコミを入れる容赦のない性格。

 言葉の端々に訛りが感じられ、通じない方言もよく使う。

 好きな言葉は『和気あいあい』


 Aー3、相川正義(あいかわせいぎ)

 初めて出席番号1番から脱することができ、羽央に感謝している。

 アルティメットプレイヤー(フライングディスクを用いて行う競技)で、運動全般が得意。

 好きな言葉は『バカ騒ぎ』

 A-3、Marie-Claude Sinclair(マリー=クロード・シンクレア)

 南仏出身のミックス(混血)で、日本の血はワンエイス(1/8)ほど。

 は行が上手く発音できないものの、日本語は達者である。

 好きな言葉は『laisser-faire, laisser-passer(成すに任せよ、行くに任せよ)』

Aー3、渡部高志(わたべたかし)。

誰とも関わる気がないことを自己紹介の場で言っちゃうような男のコ。

結果、羽央の餌食に。

好きな言葉は『孤高』

 Aー3、日向優(ひなたゆう)

 現役アイドルで愛称は「ひなうー」

 気が強く、苛烈でプライドが高い故に羽央のツッコミ役に回る羽目となった不憫な女のコ。

 好きな言葉は『可愛い』

 SA-1(特進コース)、功刀蒼花《くぬぎそうか》

 羽央とは小学生の頃の同級生でライバル。また、お互いにファーストキスの相手。

 しかし色気はまったくなく、売り言葉に買い言葉の結果である。実際、羽央が舌を入れてきたお返しに、膝を鳩尾に入れて吐かせたほど。

 本人は真面目で誠実な性格をしているものの、羽央と噛み合うだけあってまともではない。もっとも、優れた容姿と人柄のおかげで天真爛漫に見える模様。

 好きな言葉は『徹底抗戦』

 

 Aー2(進学コース)、東堂(とうどう)

 ケンバトではキングを務める。入学早々のクラスを纏め上げるほど、人望と能力あり。

 羽央曰く、インテリ眼鏡。

 どうやら、羽央に恨みがある様子。

 好きな言葉は『民主主義』

 

 A-2、南(みなみ)

 ケンバトではルークを務める。

 ノリの良いお調子者で、些か困った趣味の持ち主。

 好きな言葉は『愛玩』


 A-2、北川(きたがわ)

 ケンバトでは何故かクイーンを務める。

 南の所為で、女装+猫耳姿を晒す羽目に。

 好きな言葉は『硬派』

 A-2、西(にし)

 女性にあるまじき逞しい背中――いや、恰幅の持ち主。

 北川に衣装――小学校の制服を提供。それを高校生の男子が着れる恐ろしさ。

 好きな言葉は『食べ放題』

A-3、佐倉(さくら)

羽央とは同じ中学校なので、ある程度の耐性あり。

男子でありながら、一芸入試を手芸で突破するほど裁縫上手。

好きな言葉は『フリルとレース』

J-2、鶴来(つるぎ)

サッカー部のエースで先輩からの信頼も厚い。

また、運動全般が得意で正義感の強い少年。

好きな言葉は『真剣勝負』

SA-1、草皆知子(くさかいちこ)

羽央と同じ二木中学出身。

とある事情から、蒼花のことをお姉さまと呼び親しんでいる。

好きな言葉は『特別』

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