第35話 おふざけの終焉

文字数 1,565文字

 七回戦を終え、生徒たちは昼休みを迎える。
 これまでの合計得点は教師が集計し、午後のバトルロイヤルが始まる前に発表される予定となっていた。
 生徒たちは面倒くさくなって、途中からまったく採点していなかった。それどころか大半は飽きており、大駒しか参加していないゲームもあったくらいだ。
 それでも律儀に観戦し、クラスごとに終始賑やかな様子を見せていた。

「藍生。おまえ、凄いことになってるぞ」
 学食。
 相川はご飯を食べながらスマホを操作していた。

「凄いってなにが? おまえのマナーの悪さなら、言われなくてもわかるが? マリーのほうがまだマシだな」
「うっせーな……まぁ、確かにそれもそうか」
 
 一生懸命なマリーの姿に心打たれたのか、相川は自分のマナーを反省した。

「で、なにが凄いんだ?」
「あー、ラインで悪口が飛び回ってる」
 
 にやにやと、相川は説明する。入学前に作られた、神香原高校新入生のグループラインにてぼろくそに叩かれていると。

「へー、暇人が多いのな」
「そう言うなよな。大抵の奴がやってんだぜ?」

「なるほど!」
 羽央は大きく頷いた。
「それで最近の奴らはコミュニケーション能力が低いのか」

「いや……コミュニケーション能力は高いと思うぞ?」
 ラインはコミュニケーションツールだぞ? と相川はツッコムも、

「実践とは別もんだろ? そもそも普通にコミュニケーションが取れないから、ツールに頼ってんじゃないの?」
 羽央は持論でもって否定した。

「まぁ……実際に会って喋ってみるとあれっ? て奴はいるなぁ……」
「だろ? ていうか、よくできるよなそんなの。俺は自分の言いたいことを文字で読むと、伝えるのを躊躇うぞ」
「あぁそうだな。できたら、喋る時もそうであってくれ」
 
 討論している二人が楽しそうに見えたのか、
「ディモア――なに、あなしてますか?」
 マリーが訊いてきた。

「あぁ、指使いと舌使いはどっちが大切かって話」
 
 相川がそうだっけ? と挟むも、

「ワタシわ、舌使いのが大事だと思います」
 
 マリーは頷き、物議を醸しだす発言。

「――え?」
「――なに?」
 男二人はごくりと生唾を呑みこみ、顔を寄せ合う。
「なぁ、相川。この話は掘り下げるべきだと思うか否か?」
「いや……気にはなるが……誰も得しなくないか? むしろ、危ない気がする」
「一理あるな。もし聞いてしまったら、理性を保てるかどうか……」
「でもおまえ、異文化コミュニケーションは大事だって言ってなかったか?」
 
 ひそひそ話を不審に思ってか、マリーは懐疑的な目をしていた。

「やー、男二人でなにを話しているんだい?」
 そこに蒼花がやってきた。
「もし猥談なら、他所でやるのをお勧めするよ」

「ぬぎっ!」
「やー、マリー」
 
 通じ合うモノがあるのか、蒼花とマリーは仲睦まじかった。

「どうした、功刀」
「藍生君、ちょっと顔を貸してくれないかい?」
「顔だけでいいのか?」
「あぁ、対話ができるなら首から下を切り落としたって構わないさ」
 
 血なまぐさい台詞をさらりと吐いて、蒼花は誘ってきた。
 要件がわかっているだけに、乗らないわけにはいかない。

「ここでいいのかい?」
 
 途中から羽央が先導し、学食の裏。
 人気はないが、喧騒が微かに聞こえてくる。

「あぁ。ガチで人気のないとこだと、見つかった際の言い訳が難しくなるからな」
「なるほど、そういう考え方もあるんだ」
 
 大抵は見つからないことを前提に考えるものだが、羽央は誤魔化すことを第一に考えていた。

「あとはまぁ、俺の理性の問題だな」
 
 蒼花は大きく嘆息し、
「きみはどうして、思ってもいないことを言えるんだい?」
 困ったように胸を抱く。

「謙遜すんなって。実に魅力的な身体をしてるぞ?」
 
 はいはいと流して、
「で、本当にきみは病気ではないのかい?」
 蒼花は本題に入ったのだった。
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登場人物紹介

 Aー3(一芸入試組)、藍生羽央(あいおいわお)

 とにかく喋って、喚いて、煽って大多数を敵に回すことを好む。

 それでいて孤立せず、味方を得られるほどにはハイスペック。また強かな性格であり、負けるのも厭わず平然と大人に頼ることもできる。

 その為、一部の人間には誤解から好かれることもしばしば。

 だが幼馴染を含め、誰もが最終的にはクズで人でなしと詰るほど、どうしようもない男のコ。

 好きな言葉は『正当(過剰)防衛』

 Jー2(中高一貫組)、二穴満子(ふたあなみつこ)

 羽央の幼馴染だが、周囲からはその事実が不思議に思えるほど内気な性格。

 ただ、そんな内面とは裏腹に外見の自己主張は激しく、老若男女問わず威圧感を与えるほどに色々とでかい。

 もっとも、名前を含め本人はそのことにコンプレックスを抱いている。

 同年代では唯一、羽央の秘密――アイデンティティを知る存在。

 好きな言葉は『二人だけの~』

 A-1(進学コース)、上岡希久(うえおかきく)

 羽央や満子とは小学校からの付き合いで仲良し。二人とは対照的に――いや、平均的に見ても背が低いものの、マスコット的な可愛らしさはない。

 特に、羽央に対しては激しいツッコミを入れる容赦のない性格。

 言葉の端々に訛りが感じられ、通じない方言もよく使う。

 好きな言葉は『和気あいあい』


 Aー3、相川正義(あいかわせいぎ)

 初めて出席番号1番から脱することができ、羽央に感謝している。

 アルティメットプレイヤー(フライングディスクを用いて行う競技)で、運動全般が得意。

 好きな言葉は『バカ騒ぎ』

 A-3、Marie-Claude Sinclair(マリー=クロード・シンクレア)

 南仏出身のミックス(混血)で、日本の血はワンエイス(1/8)ほど。

 は行が上手く発音できないものの、日本語は達者である。

 好きな言葉は『laisser-faire, laisser-passer(成すに任せよ、行くに任せよ)』

Aー3、渡部高志(わたべたかし)。

誰とも関わる気がないことを自己紹介の場で言っちゃうような男のコ。

結果、羽央の餌食に。

好きな言葉は『孤高』

 Aー3、日向優(ひなたゆう)

 現役アイドルで愛称は「ひなうー」

 気が強く、苛烈でプライドが高い故に羽央のツッコミ役に回る羽目となった不憫な女のコ。

 好きな言葉は『可愛い』

 SA-1(特進コース)、功刀蒼花《くぬぎそうか》

 羽央とは小学生の頃の同級生でライバル。また、お互いにファーストキスの相手。

 しかし色気はまったくなく、売り言葉に買い言葉の結果である。実際、羽央が舌を入れてきたお返しに、膝を鳩尾に入れて吐かせたほど。

 本人は真面目で誠実な性格をしているものの、羽央と噛み合うだけあってまともではない。もっとも、優れた容姿と人柄のおかげで天真爛漫に見える模様。

 好きな言葉は『徹底抗戦』

 

 Aー2(進学コース)、東堂(とうどう)

 ケンバトではキングを務める。入学早々のクラスを纏め上げるほど、人望と能力あり。

 羽央曰く、インテリ眼鏡。

 どうやら、羽央に恨みがある様子。

 好きな言葉は『民主主義』

 

 A-2、南(みなみ)

 ケンバトではルークを務める。

 ノリの良いお調子者で、些か困った趣味の持ち主。

 好きな言葉は『愛玩』


 A-2、北川(きたがわ)

 ケンバトでは何故かクイーンを務める。

 南の所為で、女装+猫耳姿を晒す羽目に。

 好きな言葉は『硬派』

 A-2、西(にし)

 女性にあるまじき逞しい背中――いや、恰幅の持ち主。

 北川に衣装――小学校の制服を提供。それを高校生の男子が着れる恐ろしさ。

 好きな言葉は『食べ放題』

A-3、佐倉(さくら)

羽央とは同じ中学校なので、ある程度の耐性あり。

男子でありながら、一芸入試を手芸で突破するほど裁縫上手。

好きな言葉は『フリルとレース』

J-2、鶴来(つるぎ)

サッカー部のエースで先輩からの信頼も厚い。

また、運動全般が得意で正義感の強い少年。

好きな言葉は『真剣勝負』

SA-1、草皆知子(くさかいちこ)

羽央と同じ二木中学出身。

とある事情から、蒼花のことをお姉さまと呼び親しんでいる。

好きな言葉は『特別』

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