見舞い

文字数 602文字

「あんちゃんも放っときゃいいんだよ。相手にするからいい気になるんだ。」
 客は、今度は左半次に向かって説教を始めた。
「助けを求められちゃ放っておけねえ。それが、川越っ子ってやつだ。」

「なら、お金取ってショーにすりゃいいんじゃねえの?」
 別の客が割って入る。
「正義に金なんていらねえ。時の鐘で十分だ。」

 雨上がりの翌日、左半次は風邪で寝込んでいた。彼は日用雑貨店の若旦那。若旦那といえば聞こえはいいが、ニートである。
「今でこそ、しがない雑貨屋だが、世が世なら将軍になる血筋だ。」
 彼の親父の口癖である。どこまで本当かは誰にもわからない。だが、幼いときから聞かされていた左半次にとっては、仮に姿で街をぶらつくのが世直しと信じていた。
「用事が無いなら、油なんか売ってないで楊枝のひとつも売ったらどうだい。」
 幼馴染にちょくちょくからかわれる。
 店の2階で布団に包まって寝ていると、
「早く治せよ。」
 そういって、団子屋のジョウがやってきた。
「さては、病気で弱った相手に戦いをしようという魂胆だな。」
「見舞いだよ。ほれ、うちの団子だ。これでも食って元気出せ。」
 ジョウは手に持った袋から団子のパックを取り出した。
「さては、毒団子だな。食中毒にさせようったってそうはいかねえ。」
「やだな。そんなことしたら営業停止になるじゃねえか。だいたい、おめえが来ねえと売上が落ちるんだよ。」
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登場人物紹介

日比野左半次(ひびのさはんじ)

食後にお茶を飲むと日常マンになり悪と戦う。

響ジョウ(ひびきじょう)

川越の団子屋店主。恐怖団団長。

お団子ヘアが特徴。

違法営業で商店街を乗っ取ろうとしている。

新喜六(しんきろく)

桐生の酒屋の店主。

酒饅頭を食べると日常マンになる。

五月蝿岩代(うるさいわよ)

京都の小さな加茂の端(かものはし)神社の神主。

先代の神主である夫・五月蝿以蔵(うるさいぞう)の後を次いだ。

餅を食べると日常ウーマンになる。

井伊ユダ(いいゆだ)

浅草で活動する唯一の外国人、日常マン。

湯上りのコーヒー牛乳で変身する。

牧師である彼は手ぬぐいの白地を表にして首から下げている。

達磨大使(だるまたいし)

日常本部2代目本部長。

全国の日常マンたちの活動を視察して回る。

本部長キャッチコピー『悪が生んだ正義の達磨』

坂野マチ(さかのまち)

尾道で魚の行商をしている。

コロコロ団のゴッドマザー。

茶々戸ネコ(ちゃちゃどねこ)

名古屋の日常ウーマン、茶々戸ネネが飼っているネコ。

その鳴き声を聞くと誰でも名古屋弁がでてしまう。

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