文字数 1,013文字

 一年の時に、別のクラスだった濱野アキが僕の教室にやってきて、「後で読んで」と紙片を差し出した。そこには、自分のプロフィールなどが書かれていた。趣味のところは「オトコ」、好きなこと「セックス」と書いてあり、僕は度肝を抜かれた。最後に、「こんなワタシで良かったら、付き合ってネ」と書いてあった。  
 アキは、僕と同じ中学出身のサルこと富家誠司と付き合っていた仮丘サトミの友人で、遊びまくっているとの、評判だった。
 大人びた美人顔で、やや下顎を突き出した表情からは、「まだまだ同級生のあなた達には、ワタシと遊ぶのは早いわよ」と言った傲慢さが感じられたので、彼女の手紙は意外な気がした。 
 何かおちょくられているような気もしたし、まだまだ初心だった僕には、少し臆する相手であったため、返事をしないままでいた。
 そのアキが三年の仲田という遊び人と付き合い始めたことをしばらくして聞き、セックスの時に大きな声を出すとの評判が、以前学校に立っていたことを、このテープの一件で僕は思い出していた。
 
 あるとき、サトミと富家が僕の下宿に来て、
「今からちょっとつきあってくれない」
 とサトミが言う。
「どうしたがぞ」
 と聞いても、
「いいから、いいから」
 とサトミが妙にマジな顔で言う。
 そして、二人の後についていった先が、アキの彼こと三年の仲田のアパートだった。行った時、アキはセーラー服のまま、仲田のベッドに横たわっていた。
 四人でしばらく、タバコを吹かした後、サトミと富家は、行くところがあるからといって、いなくなった。もうすでに、外は薄暗くなっている。
 アキはベッドに横たわったまま、タバコを静かに吹かしている。
 僕は、今三年が修学旅行でいないことに気がついたが、まさかいきなり、こんなお膳立てをサトミ達がするとは思わなかったから、あっけに取られていた。
 僕は黙ってタバコを吹かしながら、おいてあったマンガ本を読んでいたが、長い沈黙になんとなく絶えられなくなり、アキに、
「オレ、かえるけん」
 と言って、アパートをあとにした。
 翌日、サトミから、
「三木君、アキになんちゃせららったがとねェ、あきれちょったよ」 
 と、教室の中で囁かれた。
「そうか……」
 と、僕は呆然と腕組みして、しばらく教室の天井を睨んでいた。 
 女のテープの声を聞いていると、女の声がアキの声にダブって聞こえる時がある。僕は重ね重ねもったいないことをしたと、長い間後悔した。

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