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文字数 1,199文字

 剣道部時代にはややぽっちゃりした体型で、アイ達と同じ中学出身の田代ユミが僕と同じ頃に部を辞めた後、男に狂ったとの評判が学校中に立っていた。
「田代が、チンピラとつきおうて、覚醒剤打たれよう話しは本当ながか」
 ユミと朋輩のアイに聞いてみた。
「ユミも馬鹿よね、付き合う相手が悪かったがよ」
 アイは、僕の言ったことを否定しなかった。
 その時、剣道部の夏休みの合宿のことを思い出した。
 一年の男は岡本と僕だけになっており、嫌々ながら合宿に参加した。この合宿は実質引退した三年が、最後に後輩を徹底的にしごくことが慣習になっており、僕達は気が重たかった。一年の女はユミを含めてまだ六人程いた。
 覗こうとしたわけではないが、どういうわけか、女子の更衣室に当てていた体育館のステージ右隣のドアが開いていた。僕と岡本が朝の食事から帰ってきた時、着替え中のユミのブラジャー姿が丸見えだった。僕達は顔を見合わせほくそえんだ。こういう、ちょっとしたことにしんどい合宿に来たかいがあったと喜ぶのである。
 合宿では信じがたいことに体育館のステージの上で、男女が一緒になって寝た。岡本は二年でキャプテンの篠山の横に寝た。横に寝たというよりたまたまそこが男女の境界で、キャプテンの篠山が女子の盾になるために岡本の横に寝ただけのこと。
 篠山は三年のキャプテンだった吉村の彼女で、吉村達が退いた後、二年の男がいないため、女でキャプテンになった。実家は市内で大きなスーパーを経営し、かなり裕福らしい。可愛い顔に似合わずかなり気が強く、僕が部を辞める時も、教室までやって来てひと悶着あった。
「三木、オレ夜中に手がしらんまに、篠山さんのオッパイのところにのっちょってよ、せっかくやけん、きずかれんようにそのまま手をおいちょったぜよ。オラ、今度の合宿はいやでいやでたまらんかったけんど、来てよかったかもしれん」
 岡本は、篠山のオッパイに触れたことが余程うれしかったらしく、昨日までとは打って変って嬉々とした顔で言った。
 話しがそれたが、ユミといえばこの時の合宿でみたブラジャー姿、Dカップはあるとおもわれたふくよかな胸のことをすぐ思い出すのである。
 その健康的でポッチャリしたどちらかと言えば、あまり目立たない感じのユミであったが、剣道部を辞めてから別人のようになってしまった。
 眉はそり、スカートの丈は突然サトミやアキを越すくらいに長くなり、いきなりツッパリに変身したのである。その変貌振りが急激だったことから、何かあるのではないかとうわさはしていたが、案の定チンピラにひっかかって、覚醒剤を打たれ中毒になっているとのことだった。
 確かにユミの顔はゲッソリして精彩がなくなり、廊下ですれ違っても焦点が定まらないようなうつろな目をしていた。 
 そうこうしているうちに、ユミは学校に来なくなった。
 うわさでは、精神病院に通院しているらしかった。
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