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文字数 1,208文字

 京町の一条アパートは、H信用金庫の近くにあった。
 僕と眠と谷本は、白木の50CCのバイクに3人乗りで、夜の街を浮かれた気分で走った。
 四叉路の交叉点を勢いよく曲がったところで、三十メートル程先にパトロール中のパトカーがこちらに向って来ているのに気づいた。後ろに乗っていた僕と眠は瞬間飛び降りていた。
「おい、逃げろ!」
 と、運転していた谷本はバイクを百八十度回転させて、もと来た方角に一目散に突っ走った。僕と眠も慌てて走り出し、小さな路地に逃げ込んだ。
 しかし、蛇の道は蛇である。すぐに僕と眠は捕まってしまった。
 僕と眠は、パトカーに乗せられ取り調べを受けた。
「逃げたらいかんろうが」
「すいません」
「おまえら、N校の学生か」
「はい」
 僕と眠は、深々と首を垂れて、おまわりの言うことに素直に答えた。
「何年ぞ」
 おまわりは、僕達が逃げたことに腹を立てているらしく、怒った口調で聞いた。
「二年です」
「おまえら、酒臭いけんぞ、飲みよったがやろう」
「……」
「優秀なN校生がそんなことじゃいかんろうが」
「すいません」
 観念して素直に謝るしかなかった。
「こんな時間にどこ行きよったがぞ」
 もう一人の、やや年配の小太りのおまわりが、不審そうに聞いた。
「ラ、ラーメンを食べに……」
 僕はとっさに嘘を吐いた。
「もう一人は、どこ行ったがぞ、あれが、帰って来んかったら、おまえら帰さんけんにや、ええか」
 若い方のおまわりが、脅すように言った。
「あれは、どこに住みようがぞ」
「寮です」
 眠が言った。
「ほんなら、寮にいってみるかや」
「いや、多分寮には帰ってないと思います」
「ほんなら、あれが行きそうなとこ案内せえや」
 僕も眠も一気に酔いが醒め、段々と顔が青ざめていくようだった。
 白木のアパートに行くと、案の定白木のバイクがあった。僕は、部屋を見られるとやばいと思い、
「ちょっと、見てきます」
 といって白木の部屋に駆け込んだ。
「おい、やばいぞ、今おまわりん下え来ちょうけん、上がられんうちに、はよいくぞ」
 谷本も吸いかけのハイライトをすぐにもみ消して、アルコールの匂いを消そうと思ったのか、洗面所で慌ててうがいをした。
 心配そうに見上げる白木に、
「ひょっとこの部屋に入られたらいかんけん、白木、部屋片付けちょけや」
 といって僕と谷本は、まるで出頭する罪人のような面持ちで階下に降りていった。
 僕と眠と谷本は、パトカーの後部座席に乗せられ警察署まで護送された。わざわざアーケードを通っていくおまわりを恨めしく思った。アーケードでパトカーにすれ違う人達は、僕達のことを、
「この子達は一体どんな罪を犯したのか」
 といった、興味津々の眼差しで、沈痛な表情で座る僕達を覗き込んだ。
 警察で僕達はコンコンと説教された。その晩皆の保護者が呼ばれた。警察署を出てから父親に説教され、翌日校長室に呼ばれてまた説教された。
 それから僕達は、名誉ある停学をくらった。
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