文字数 825文字

「三木君、ミユキのことどう思うちょうかって、ミユキが言いよったよ」
 放課後サトミが、僕の下宿まで来て、玄関口で薄っぺらいカバンを後ろ手に持ちながら、俯いている僕の顔をいたずらっぽく覗き込むように聞いた。
 サトミのこう言った時の表情とか仕草が不良のくせに可愛いと思う。
 しばらく、その意味を解しかねて黙っていると、さらにサトミが、
「本当のところは、どうなが」
 サトミが僕の表情の変化を見逃さないように、ジーッと見つめている。
「べつに……、どうっていう特別な感情は……」
 と言った後、後悔をした。
 多分、サトミが来ていなかったら、僕はもっと別な素直な言葉を言えたと思う。
 後から考えて、ミユキと僕はうまくいっていたはずなのに、突然ミユキが「どう思うちょう」なんてサトミに聞かせた話は、どうも不自然な気がしたが、もう後の祭だった。
 付き合い始めて、半年近くたつのにキスもしないし、ましてや手も握らない僕に、ミユキが、
「本当に私のこと好きなが」
 と念を押しにサトミにこさせたのは、
「何もしないがは、本当は私のこと好きやないがやろう、それやったら、お義理で付き合わんでもええよ」
 といったニュアンスがその伝言の中にあるものと勘違いをし、照れ臭さを隠すようにそっけない言い方をしてしまった。何故か、サトミにはめられたという気がした。
 案の定、次の日ミユキからだといって、サトミがメモ用紙のような紙片を僕に渡した。
 そこには、
「短い間だったけど、楽しかったです。ありがとう。ミユキ」
 とあった。 
 僕はまた、何かドジを踏んでしまった自分に後悔をしていた。まだまだこの頃の僕は、女心などわかるはずはなかった。
 しばらくの間、塞いだミユキの様子を見るにつけ、僕の心は痛んだ。ミユキに素直に誤ってもう一度付き合おうというには、僕の優柔不断な性格が邪魔をした。
 気まずい気持ちのまま、月日がどんどん過ぎていき、僕とミユキの付き合いは、あっけなくピリオドが打たれてしまった。
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