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文字数 543文字

「オレ今日の進路の話しの時によ、医大を受験しようと思うてます、ゆうて市山にゆうたらにや、市山二十秒ばあ黙っちよ、真面目な顔で、そしたら君は今晩から死に物狂いで頑張らんといきませんねゆわれてよ、吹きよったぜよ」
 僕は六時間目の授業を眠と一緒にさぼって、白木のアパートでハイライトを吹かしながら、さっきの面談のことを話した。
 市山は進路指導の教員で、生物を教えていた。普段は物静かな口調でしか話さないが、一度切れるとこれが同じ人間か、と思うようなやくざ口調に変わる。その豹変振りに僕達は、一学期に一度くらいは驚かされる。
「そうか、オレもよ東京芸大をねらってますゆうたら、芸術はセンスの問題だから今後充分感性に磨きをかけなさいゆわれてよ、先生今のは冗談ですとは言えなくなって弱ったけんね」
 眠も多摩美あたりで話すつもりが、いっぺんは東京芸大狙ってますと言いたかっただけのことが、市山が吹きもせずに真面目に答えたために、後にひけなくなってしまった、と笑った。
 僕や眠や谷本は、勉強と言えば期末試験前の一夜漬けだけで、後は一切勉強しなかった。だからまともな大学に行くことは、はなからあきらめていた。どちらかと言えば、僕達でも入れる大学のなかから、しかもいかに要領よく楽して入るかを日々考えていた。

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