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文字数 711文字

 僕と谷本と眠は、いつも来る横田書店で立ち読みをしていた。
 この店もタバコ屋同様、七十過ぎのおばあさんが店番をしている。
 僕達は不自然に三人がピッタリと寄り添うように、立ち読みを続けていた。
 おばあさんのところから、最も遠いところに立ち、平積みにされた本の上にカバンを置き、立ち読みをしている振りをしていたのだ。
 一番右側に立って、さっきからおばあさんの様子を窺っている眠が、僕と谷本にOKと声に出さずに口で合図した。
 僕は前から狙っていた「ボブ・ディラン」というタイトルの分厚い伝記本を、カバンに入れた。谷本は、他のコーナーから持ってきたヌード写真集を自分のカバンに入れた。
 横田書店に来る前に作戦を練っていた時、
「オレ、ゴッホかなんかの、画集を取りたいにや」
 と眠が言った。
「バカゆうな、あんなでかいもん、どうやってカバンにいれらあや」
 と谷本が、眠に回しげりをくらわした。
「おまえのために、おれらも、捕まってしまうやいか」
 僕ももっと小さいものを取るようすすめた。
 結局眠は店に入ってから決めると言っていたが、その時になってうろたえてしまった。
 後で確かめた時、取ろうとしたはずの油絵入門の本と並んであった囲碁入門の本がカバンの中に入っていて、「ミスッター」と天を仰いだ。
 僕達がはじめて万引きをしたときの事である。
 しかし僕達は、このおばあさんのいる横田書店での万引きは、どこか良心が痛んだため、二度としなかった。
 その後はもっぱら行き付けのスーパーで、エロ本だけを盗んだ。
「やっぱエロ本は、買うもんじゃなくて、盗むもんよにや、あんなもん、はずかしゅうて、買えんでよにや」
 僕達は、自分達の万引きを正当化していた。
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