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文字数 810文字

 僕達二年の校舎の南向かいが、一年の校舎になっている。
「オイ、またあの子、こっち見ようぞ」
 ここのところ何日か続けて、休み時間になると、向かいの校舎から、二年の僕達の教室の前方まで来ては、ずっとこちらを見つづける一年の女の子のことが、話題になっていた。
 女の子は、サッカー部のマネージャーをしているなかなかの美人だった。
 大熊や眠や谷本達が冗談に手を振ったが、彼女はニコリともしない。
「誰を目当てに見ようがやろうにや、みんなん順番に手を振ってみたらわからへんか」
 とコキー大熊が言った。
 誰が手を振っても反応がない。
「三木も手を振ってみろや」
 と大熊に促されて、僕は渋々はにかみながら手を振った。なんと、女の子が笑って手を振り返してきたのである。
「なんや、三木やったがか、つまらんにや」
 といって、大熊や谷本が、
「本当にこれか」
 といったゼスチャーで僕の方を指差して、彼女の反応を見た。
「うん、うん、うん」
 と彼女は三回大きく頷いた。
「ヒャッホー」
 とコキー大熊達が、嬌声を上げた。
 その後も彼女はほとんど毎日のように、休み時間ごとに向いの校舎から、僕達の教室を、いや僕を見続けていた。目的が僕だということがわかってからは、みんなに、
「また来ちょうぞ、はよう、手ぇ振っちゃれや」
「はよう、一発やっちゃらんと、おさまりつかんぞ」
 とか、散々冷やかされてまいった。
 彼女はスタイルも良く美人だし、もっとこっそりと交際を申し込んでくれさえすれば、いつでも付き合うことが出来たのにと残念に思った。これだけみんなの注目を浴びた彼女と、今更付き合うことは、妙に間抜けなようでシャイな僕には出来なかった。
 そんな格好をつけているうちに、彼女はサッカー部でプレイボーイの荒木と付き合ってしまった。荒木と彼女が放課後仲睦まじく帰る姿を見ながら、
「オレって、本当にマヌケもマヌケ、本当にどうしようもない大マヌケ野郎だ」
 と唇を噛むのである。
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