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文字数 429文字
寮の正門には寮生のほか、僕、眠、白木、坂下、テツヤ、コキー大熊までもが休みの早朝にも関わらず谷本を見送りにやってきた。
集まった皆が谷本の顔を見て驚いた。
「夕べ転んでにや」
と谷本が頭を掻きながら、バレバレの嘘を言った。皆もただ笑ってその嘘を呑みこんだ。
谷本は感傷的になることを嫌って、ボブ・ディランの「風に吹かれて」をへたくそな口笛で吹いた。
試合後のボクサーのような痛々しい顔をした谷本が、静かに笑って、
「家のほうにも遊びにこいや」
と最後に僕達に言って、親戚の軽トラに乗り込んだ。
コキー大熊が突然万歳三唱をした。それに合わせて皆で何度も繰り返し万歳をした。
谷本は照れた顔で、戦地に赴く兵士のように皆に敬礼をした。
いつも谷本は、ハイライトは労働者のタバコだ、と知ったかぶって言っていたけど、これで本当に労働者になる谷本がうまそうにハイライトを吸うだろうなと思いながら、朝靄の四万十川沿いを走り去る軽トラを、少し羨ましく思いながら見送った。
(了)
集まった皆が谷本の顔を見て驚いた。
「夕べ転んでにや」
と谷本が頭を掻きながら、バレバレの嘘を言った。皆もただ笑ってその嘘を呑みこんだ。
谷本は感傷的になることを嫌って、ボブ・ディランの「風に吹かれて」をへたくそな口笛で吹いた。
試合後のボクサーのような痛々しい顔をした谷本が、静かに笑って、
「家のほうにも遊びにこいや」
と最後に僕達に言って、親戚の軽トラに乗り込んだ。
コキー大熊が突然万歳三唱をした。それに合わせて皆で何度も繰り返し万歳をした。
谷本は照れた顔で、戦地に赴く兵士のように皆に敬礼をした。
いつも谷本は、ハイライトは労働者のタバコだ、と知ったかぶって言っていたけど、これで本当に労働者になる谷本がうまそうにハイライトを吸うだろうなと思いながら、朝靄の四万十川沿いを走り去る軽トラを、少し羨ましく思いながら見送った。
(了)
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