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文字数 971文字

 伯母が出勤した後、僕はいつものように横になって、テレビを退屈凌ぎにみていたら、昨夜外泊した由紀子が昼前になって帰ってきた。
 由紀子とは、伯母の家に来て以来ゆっくりと話すことがなかった。深夜に帰ってくるか、比較的早い時間に帰ってきても酔っ払っているから、早々に部屋に入って寝るし、後は外泊して帰らなかったりで、僕がおきている時間にまともに家にいるということがなかった。
 由紀子は疲れきった顔をしていた。
「ここのところ、まともに帰ってこんけんど、どうしようが」
 僕は野暮なことを、心配そうなふりをして聞いた。
「まあ色々とあるんよ」
 と、由紀子は冷蔵庫から缶ビールを出しながら、けだるそうに答えた。
「なあケンちゃん、ビール飲めるやろ、一緒に飲もうや」
 由紀子は、テーブルに缶ビールを二つ置き、僕にここに来て飲みなさいという風に促した。
「あんた、アタシのアホな彼氏のこと聞いてくれる」
 三本目の缶ビールを、冷蔵庫から取り出してきて、僕の前にも無造作に置きながら由紀子が言った。
「アタシらもうダメなんよ、昨日もな、もう別れようゆうたら、彼氏が、オマエと別れるんやったら、オマエ殺してオレも死ぬゆうて泣くんよ、アホらしゅうて、やってられんわ」
 由紀子は、忌々しげに言った。
 僕は、目の前の由紀子は小柄な体と可愛い顔に似合わず、結構大きな形のいい胸をしていると、由紀子の話を伏し目がちに聞きながら、眺めていた。
 彼氏と付き合い始めたきっかけは、由紀子の友達の紹介だったらしい。今の彼が由紀子にとっての始めての彼ではなかったらしく、今までの彼氏が軟弱なプレイボーイ風な男ばかりだったので、K大の現役硬式野球部で元甲子園球児の彼の男っぽさにひかれたと話した。
 しかし、ことセックスに関しては淡白で、由紀子にしたら物足りなかったらしい。そうこうしているうちに、別の男にナンパされて、ずっと二股かけていた。それが今の彼氏にバレてしまって、二人の関係も気まずくなった。由紀子は嫉妬深い彼に愛想を尽かし、別れ話をここ数日来しているのだが、それがうまくいかないと嘆いた。
「昨日も、どうしても別れるゆうんやったらこのまま突っ込んだるゆうて、メチャクチャ車飛ばすねん、本当怖かったわ」
 帰宅した時の由紀子の疲れきった顔を思い出して、昨日の別れ話のもつれた様子が窺い知れた。
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