文字数 873文字

 富家ことサルは、同じ中学出身の一人だったが、中学では最も優秀な男だった。
 県下で最難関の私立T高校を受験したが、落ちた。このことが、サルの人生を大きく狂わせたのだろう。
 サトミは、地元の不良仲間とバンドを組んで、ボーカルをしていた。
 一度、地元のアマチュアバンドが定期的に行っているコンサートに招待されて、H文化センターに聴きに行ったことがある。我々と暗い部屋でけだるそうにタバコを吹かしている彼女が、スポットライトを浴び恍惚と唄う姿は、初心な乙女のように見えた。
 僕とサルは、高校入学後すぐに剣道部に入部したのだが、サルは女に狂い始め、早々に退部した。
 剣道部には、僕を含め六人ほど同学年にいたのだが、皆厳しい練習に嫌気がさし、一人二人やめていき、一年を過ぎた頃には、岡本慶太と僕の二人だけになった。が、最後には、岡本もやめてしまった。
 僕も同学年の部員がいなくなったことで、やる気をなくし退部した。
 それ以後は、白木のアパートでタバコを吸い、酒を飲んだり、隣市でパチンコをしたり、スーパーでエロ本を万引きしたり、適当にセンズリをこき、安いプレーヤーでビートルズばかりを聞き、時々サングラスをかけポルノ映画を観に行ったりの、怠惰な日々を過ごしていた。
 下宿屋のおばさんからも、
「三木君は、剣道しよった時のほうが良かったよ」
 と言われた。
 大家であるおばさんは独身だった。
 病弱なため教師を辞め、現在は自宅で、小中学生相手の塾をしていた。器量も悪くないし、まだ四十代前半であり、妙に色っぽさが漂っている。
 下宿の中は僕とおばさんしかおらず、トイレに階下に降りた時、おばさんとばったり廊下ですれ違い、おばさんのネグリジェ姿にドキッとする時もあった。 
 ある夜など、おばさんが僕の部屋にやってきて、
「ちょっと、おしえてくれん」
 と言って、僕に体をくっつけるように座った。おばさんは少し酒臭かった。
 それは数学の問題だったが、塾をしているおばさんが僕に聞いてくることが不自然に思える程の簡単なものだった。僕はこの時おばさんに、少し薄気味悪さを感じた。
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