【0】前回の終章、あるいは今回の序章

文字数 903文字

 蒼き竜騎士と赤き竜騎士が、一角竜を乗りこなして山を下り、森を抜け、平原を駆けていく。
 その輝く流星が如き姿は、イリオスの子竜達や、山の麓の人々には英雄として映るだろう。
 いや。イリオス自身から見ても、古の因縁を経ち切った彼女達は英雄であった。
「あの日の出会いから、このような未来に繋がるとは。まだまだ世界は、我を飽きさせぬようだ」
 未だに、あの日レクシアが山に置かれていた理由は分からない。これが神の定めた運命だとするならば、どのような意図があったのだろう。それをいつか知る為、娘には自由を与えるべきだと考えた。
「きっとお主なら、その答えを見つけてくれるだろう」
 再び旅立つ前、娘は種族の差を無くしたいと語っていた。具体的な行動方針は出せていなかったが、あやつらしくて良い。それによる迷いなどは、あの赤竜騎士が解決してくれるだろう。
 相棒のアルンも、似たような夢を語っていた。竜人に配慮した行動方針を立派に立てていたが、柔軟に行えるのかは分からない。彼女自身黒の大地の意志を継ぎすぎている。それによる間違いなどは、我が娘が正してくれるのだろう。
 ほとんど真逆、しかしどこか似ている、とても良い二人組だった。彼女らの旅路は、今後も刺激に満ちた、豊かなものになるであろう。
 あやつらは強い。前回の旅のようにどんな困難も乗り越えられるだろう。
 しかし、信頼と心配は別である。大丈夫だと思っても、つい娘の為に飛びたくなってしまうのだ。
「エルダークラス到達を控えた儂も、今やただの父であるな――む、あの風は……」
 聖域から少しばかり顔を出し、二人の竜騎士がコロシアムに消えた様子を見ていた。するとその先の街、さらにその先の山道から、ゆっくりと山を削り、それでいて不自然なまでに勢いを落とさない台風を見つけた。その風の中で光る緑の光、見覚えがある。
「娘がそうしたように、我もこの安穏の世界から、少しは抜け出してみるべきかもしれん」
 恥ずべき事だ、これは言い訳というものだ。
 今のレクシアに自分も影響されている事を自覚し、呆れそうになりながらも、イリオスは翼を広げ、台風に向かって飛んだ。
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登場人物紹介

レクシア 

物語の主人公、語り手。神の事象顕現、竜の異能の双方の力を持った魔法を扱う蒼竜騎士。特殊な境遇から自分の種族が簡単に説明出来ないため、混血種族の代表たる人間として、異種族交流問題に積極的に関わっていく。

アルン

レクシアと共に旅をする、もう一人の主人公。自身の竜鱗を使った剣から炎を出して戦う赤竜騎士。実際は竜族だが、外見を竜人に変え、興味のある人間達に竜の文化で交流していく。

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