【4】決戦、魔紋と竜撃

文字数 3,699文字

「バーニングブレイド!」
「粛清を!」
「くっ――!」
 相手の豊富なカウンター系スキルをそのまま受けると、こちらの火力が高ければ高いほど危険になる。
「ディア・パステル!」
 アルンの傷を癒す。火竜なので、火傷等は反射されても起こらないが、反射された剣の威力は元の威力より大きい。このまま続けてもいずれ私達が負けてしまう。
「癒し手は面倒だ」
「はぇっ⁉」
「レクシア⁉」
 ガ・シャンブリの杖の光に悪魔像が反応し、私の足元の床が跳ね上がった。アルンがこちらに振り向く時には、私はそこにいない。
「ッは!」
 どうにか頭は避けたが、天井に身体をぶつけて呼吸が一瞬止まる。室内戦闘の難しさを感じながらも、次の攻撃に備えて意識を保ち、落下。
「呪蛇よ」
「させるか!」
 吸収の蛇が私に向かって上がるのを、アルンが斬り落とす。しかしその蛇にも反射が仕込まれている。
 回復は出来ているが、アルンは痛みを受け続けている。私も奇襲を受け続けている。何か新たに行動を起こさないと――
「アルン、悪魔像を壊そう!」
「了解だ!」
「させん!」
 口の奥に肉体さえあれば、私達を丸呑みできるほど巨大な鎧蛇が数体現れた。読めない軌道で突進してくる。アルンが迎撃しようとしたが、大きな歯に剣を噛みつかれる。
「このっ」
 その他複数方向から蛇が――!
「止まって! セルリアンルーセント!」
 蒼の光で蛇を怯ませる。その隙にアルンが拘束を解き、スライディングで蛇達の間をすり抜けた。
「焔の逆鱗!」
 接続部の鎖を切り落とすと、鎧の頭が簡単に床に落ちる。咄嗟の連携は成功だ。私も続いて駆け込む。
「よし――たあっ!」
 頭だけになっても口を動かし続ける大量の蛇を、ダッシュジャンプで飛び越えにいく。蛇の口の真上まで跳ぶと、ガ・シャンブリの魔力弾が横から飛んでくる。
「ふわっ!」
 空中で体を捻ってかわし、天井が見える。蒼竜の羽を構えて一瞬の浮遊。後は背中から落ちるだけ、コンバートの翼も間に合わない。
 信じて手を真っ直ぐ上げて伸ばす。手首が握られ、引っ張られる。
「任せた、レクシア!」
 勢いをそのままに手を離され、私は奥へ放り投げられる。床を転がって途中で受け身をとり、悪魔像の目の前に到着する。背後で熱を感じたので、アルンは蛇を完全に無力化しにかかっているだろう。
「いくよ――セルリアンスレイブ!」
 竜刃の杖をフルスイングし、硬めの石で造られた像の体を破壊した。すると別の二か所でも崩壊の音が響き、四つ中三つが同時崩壊した。
「きゃあぁっ!」
 紫のオーラが拡散し、反射の衝撃に襲われ吹っ飛ぶ。腕から広がる全身の激痛の中でも、安全のためなるべく早く片目だけでも開ける。アルンの足元だ。鎧蛇達の目の光は消えているが、各所から再び無限生成されている。
「レクシア、無事か⁉」
 アルンがこちらを見下ろしてくる。表情から余裕は消えていた。
「だ、大丈夫、平気……まだ来るよ……!」
 実の所すぐには動けないので、警告だけ発して回復の準備を整える。
「これ以上の愚行は許さぬ……!」
 像を破壊したからかオーラが少し薄くなっているガ・シャンブリ。だが蛇の硬度や生成量は強くなっていく。
 私の顔のすぐ隣に蛇が現れ、その牙を向けてくる。
「ひっ」
 私の思わず漏れた声に反応したアルンが、足で蛇を踏み潰した。大量の鎧や骨の蛇に包囲され、危機的状況だ。
「お前にこれは使いたくなかったが、止むを得ん!」
 アルンは背中の黒塊に熱を与え、イプシロン・アーマーを装備した。私もようやく、回復が使えるくらい痛みに慣れた。
「ボルケーノブレイド!」
 床に刺した竜鱗の剣が炎を発し、脆くなった床の一部を貫いて下から噴火を起こした。蛇達がかつてない勢いで灰と化す中、ガ・シャンブリは両手を広げて笑っていた。マナの書を杖に触れると、杖はマナストーンの時と同じようにマナの書を取り込んだ。
「ようやく来たか、忌まわしき神器よ。命の無い捨て駒とはいえ、この蛇達が沈む様はあの日を思い出す――むしろ使え。騎士アルン。それは私が滅ぼさねばならぬ悪そのものだ!」
「――そんな楽しさのない、憎しみの感情の相手と戦いたくはないから、私は嫌だったんだ」
 アルンはそう言いながらも、駆動する炎を制御しながら、剣をガ・シャンブリに向けた。
 私はどうにか立ち上がって、最後の像を見据える。唯一連動して壊れなかったそれは、悪魔ではなく大蛇の形をしていた。
「ッ――!」
 大蛇像を目指して床を蹴る。無数の蛇が頭をぶつけ合う勢いで密着し、行く手を阻んでくる。
 ガ・シャンブリ本人はアルンへの意識を外さないため、今がチャンスだ。
「セイクリッドウィング!」
 蒼竜の羽を背中の肌に付け、翼に変化させる。飛行でかく乱し、上から杖を向ける。
「終わりっ!」
 光で大蛇像の中心を貫くと、オーラが拡散した。壊れ際の反射を今度は事前に警戒し、シールドを張った。
「ぅうっ!」
 罠の反射は、シールドでは一切防げなかった。来るのは相手の攻撃ではなく、私自身が放った攻撃だ。
 痛む体がまた弾き飛ばされて、吹っ飛び軌道を予測してきた蛇の牙がこちらに迫っている。しかし同時に、アルンの背後、本来私が守るべきだった場所からも蛇が迫っている。
「守る!」
 セルリアンルーセントが命中、アルンの背中は守った。代わりに、私の落下を狙う蛇の牙が、私の腹を挟んだ。
 声にならない叫びを上げ、血を吐いた。背後に降った光に気付いたアルンが、私を嚙み千切ろうとする蛇を根元から焼き尽くした。
 無防備に落下する私をアルンが抱え込むように受け止めると、ガ・シャンブリは魔術を構えた。体の鱗が一部剥がれている。凄い威力だ。
「計画の最終段階にと用意していた未完成品だが、出し惜しみする場合では無いようだ」
 輝く魔杖が、崩壊した像から漂うオーラの残り香を吸い取り、四隅の像があった場所の中央の床から新たな邪神像を造った。
「魂狩りのジャヴォール!」
 今まで見た事の無い形の蛇が、邪神像に取り込まれる。
 鋭い棘のような翼を持つその像から、青炎が燃え始め、魂を得たように動き出した。
 蛇も同時に全方位を囲むが、アルンは怯まない。
「無駄だガ・シャンブリ、勝敗は決した!」
 アルンは私の足を床に優しく下ろし、支えてくれる。私の足がちゃんと体を支えられてない事に気付いているんだろう。
「もう今更、あれに怯える私達じゃない。――いけるか?」
「うん。やろう、一緒に」
 蒼き光の杖と、赤き炎の剣。気持ちを繋いで、邪を薙ぎ払う。
「「セイクリッドブレイズ!」」
 紅蓮の祝福を受け、蛇が一斉に炎で焼け落ち、同時に闇の穴が光に塞がれた。
 ジャヴォールが少し耐え抜いたが、アルンの突進に合わせて私も駆け込み、両サイドから挟み込む。
「行くぞ、レクシア!」
「任せて、アルン!」
 本来強敵であったであろう邪神は、攻撃をする前に先制され、寄生していた蛇が消滅した事で動きを止めた。
「クッ――やはり呪詛の供給無しでは役立たずだというのか、邪神!」
 ついに冷静さを欠いたようなガ・シャンブリ。アルンの表情に余裕が戻った。
「もっと簡単な答えがあるぞ、ガ・シャンブリ。この世界の仕組みを知っていれば分かるはずだ」
 アルンは私を見た。私は頷いて笑ってみせた。
「挟み打ちやコンボは、仲間との連携が必要不可欠。ガ・シャンブリ――あなたは一人で頑張りすぎたよ――うっ」
「レクシア⁉」
 ふらついた私のぼやけた視界に、アルンが駆け寄ってくるのが見える。倒れなかったので、アルンは私をちゃんと支えてくれたようだ。
「ごめん。ちょっと、無理しすぎたかも……」
「悪魔像の反射を全て受けたんだ、むしろよくやってくれた」
 ガ・シャンブリの足音が聞こえる。目はもうちゃんと映してはくれないが、もう蛇すら使えない事は分かった。
「見事。貴様らの勝利だ。貴様らなりの方法で、平和を創ると良い。だが、その神器ある限り……私の正義は……まだ……!」
 アルンが立って、剣を構えた。私も立ちたいが、もう動けない。
「反射はまだ使えるはず……どうするの……?」
 私は問う。アルンも限界に近い筈なので、これ以上反射は受けられない。
 アルンは冷静に答えた。
「反射の対処法として、私が知るものは二つ。一つは竜の力を使った貫通攻撃だ。だが今の私は人間と関わる騎士だ。人と同じ条件で競う為、貫通は使えなくしている」
 剣の炎が燃える。足は踏み込みの構え。
「神器キュクロプスは、私が粛清する!」
 魔力の波動が、ガ・シャンブリの術の開始を伝えている。
「そしてもう一つの対処法。反射が来る前に、魔術を使用した術師本人を倒しきる事。信じろレクシア。私の、火竜の本気を!」
「分かった。私はいつだって、アルンを信じてるよ」
 長いようで短い時間が過ぎ、因縁の決戦が一瞬で始まる。
「同胞が為、新たなる世の為、世界の為。正義――執行!」
「その心の熱――私は、全力で応じよう!」
 踏み込み。轟音。相手の渾身の搦め手に、火竜騎士はまさに竜の騎士らしく、真正面から挑む。
 双方の力の波動に押された。満身創痍の私が記憶できたのはここまでだ。
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登場人物紹介

レクシア 

物語の主人公、語り手。神の事象顕現、竜の異能の双方の力を持った魔法を扱う蒼竜騎士。特殊な境遇から自分の種族が簡単に説明出来ないため、混血種族の代表たる人間として、異種族交流問題に積極的に関わっていく。

アルン

レクシアと共に旅をする、もう一人の主人公。自身の竜鱗を使った剣から炎を出して戦う赤竜騎士。実際は竜族だが、外見を竜人に変え、興味のある人間達に竜の文化で交流していく。

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