【1】蒼赤の友

文字数 2,392文字

 楽しい。
 楽しい!
 絆で繋がった友達と、こうして競い合えるのは、とても――
「楽しいよ、アルン! セルリアンルーセント!」
 杖から一直線に放つ蒼の光。アルンはそれをステップで避けたり、剣で受け流したりして対処する。
「それは何よりだ、レクシア! バーニングブレイド!」
 剣から豪快に放たれる赤の炎。私もそれを走って避けたり、光で相殺したりして対処する。
 もうお互い本気になってきて、私の角や髪先は金に輝き、アルンも髪の結びが弾け、鎧が焼けてきている。
 熱い読み合い。性格を、普段の動きを、戦い方を知っているからこそ、たまに見せる意外な動きや、相手の力の新たな使い方を発見したりすると、相手の事をさらに知れる気がしてとても嬉しい。そしてそういった複雑な挙動は私も試してみているから、それに気付いて表情を変えてくれたのに気付くと、それもまた嬉しい。
「さあ、お前はこれに立ち向かえるか?」
 アルンは竜鱗剣を振りまわし、炎を広範囲に広げる。遠くの私の目が熱を感じ、一瞬強く目を閉じる。
 目を開けると、急接近する煙。急いで再び目を閉じ、杖と羽に意識を集中する。
「目くらましなんて、アルンらしくないね。セレスティアルレイン!」
 対戦盤面を薔薇の世界で染め、煙をその魔力の波動で払う。既にけっこうな距離を接近していたアルンが、薔薇に怯まずに突進を続ける。
「お前が私を変えてくれたんだぞ、胸を張れ!」
「今その変化は困っちゃうね――トワイライトクロス!」
 私の空いた左手から広がる黄昏の幕。あらゆるものを受け入れ、包み込む防御用事象顕現。
 牽制に炎を飛ばしてくる事を警戒したのと、突進の勢いを弱めたいと思って選択した技だったけど、アルンはそこまで読んでいたようだ。
「今こそ炎を宿す時。ここで新技を披露だ。――バーニングチャージ!」
 剣を背中に担ぐように構えて、私の思惑とは逆に加速するアルン。黄昏の光の目の前で、剣を地面に叩きつけて吹っ飛ぶように大ジャンプ。空中で縦に一回転して狙いを定め、再び背中に剣を担いで空気抵抗を無くし、私目掛けて急速落下してくる。
 空中での戦闘を学んだアルンが賢く生み出したスキルだが、その内容は猪突猛進、まさにアルンにぴったりの純粋な攻撃だった。
 魔法使いが相手の剣士の接近を許してしまった。私に出来る迎撃手段はただ一つ。
「なら私も、成長を見せるよ! セルリアンスレイブ、再構築!」
 杖の先端の魔石が羽と共に強く輝き、その周りを半透明の蒼い刃が舞う。私の杖はイリオスの力を受け継ぎ、魔法の薙刀としても機能する。
 アルンが着地と同時に剣を振り降ろし、体重も意志も込めて押し込む。私はそれを両手で持った杖の刃で受け止め、片膝をついて耐える。お互いの笑顔が向かい合う。伝わるよ、アルン!
「その刃、まさに剣のような形。イリオスの爪ではなく、自身の力として使いやすいよう改良か」
「そうっ……だから、こういう事も出来る!」
 魔石が強く輝き、蒼色のフラッシュを起こす。杖の剣が激しく巡る。私は膝を伸ばして杖を振り上げ、アルンの剣を弾き返した。
「竜である私の筋力を押し返すか。面白いッ! その剣さばき、どこで学んだ⁉」
 フラッシュ打ち上げから復帰したアルンは、私を逃がさないように接近を続ける。私はその炎の剣を避け、受け、弾いていく。
「目の前にいる師匠を、ずっと見てきたんだよ。親友!」
「なら負けるわけにはいかないな、心の友よ!」
 ずっと、ずっと続けていたい。争いが苦手な私だけど、大好きな相棒との語り合いは全く別の感覚だった。きっとこれが、このオセロニアという戦いの世界での交流なのかもしれない。
 しかし終わりなんてものが来ないはずは無く、むしろいつか終わるから気持ち良い。
 不意打ちで発生させた私の光で怯み、隙が出来たアルン。そこを逃さずに渾身の突きを打ち込む。
 しかし炎の熱を浴び続けた私の身体は鈍っていて、立ち直ったアルンの突きが後攻でありながら追いついてくる。
 両者の突きが当たる直前。空から力を抑制する衝撃波が放たれる。私達の攻撃が直前で止まり、困惑しながら至近距離で見つめ合った。
 天から女性の声が力強く響き渡る。
「焦らずともよい、長らく使う機会がなかった発信機能だ。――天軍よりこのエリア全域に緊急連絡。基本挙動より大きくズレた災害指定エルダークラスの接近により、強大な嵐が本日の夜通過する。民の皆は日没までに、屋内などへの避難を行って欲しい。避難が難しいようなら天軍が責任をもって保護するから声をかけてくれ。異例の事態故、急ぎの連絡となった事を謝罪する。以上だ」
 数秒かかって話の内容を理解し、その後さらに数秒かかって目の前の状況を理解した。
「えっと……あの……」
 アルンの顔が近くて気まずいとか、自分の顔がまじまじと見られて恥ずかしいなんて言ったら、別にそんな事思わないアルンにからかわれるので言わないでおく。
 私から大した言葉が出なかったのを確認したアルンが、目を瞑った。
「また邪魔が入ってしまったな――まあ、最後の攻撃はレクシアの方が早かったから、私が助けられたか」
「私の感覚だと、アルンの攻撃を避けながらの私の剣は、きっと届かなかったよ。邪魔されちゃったのは、きっとまだ、決着をつけちゃいけないって事なんじゃないかな」
 二人で小さく笑った。
「そうだな。やはりお前は良い好敵手だ」
「うん。これからも一緒に、強くなっていこうね」
 体制を立て直し、握手。観客席に礼をすると、異例の中断をされてしまった観客達も満足したように騒いでくれた。
 さあ、名残惜しいけど次なる冒険のために、ここを後にしよう。
 だけどその前に、二人で拳を突き合わせ、決まりの挨拶。
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登場人物紹介

レクシア 

物語の主人公、語り手。神の事象顕現、竜の異能の双方の力を持った魔法を扱う蒼竜騎士。特殊な境遇から自分の種族が簡単に説明出来ないため、混血種族の代表たる人間として、異種族交流問題に積極的に関わっていく。

アルン

レクシアと共に旅をする、もう一人の主人公。自身の竜鱗を使った剣から炎を出して戦う赤竜騎士。実際は竜族だが、外見を竜人に変え、興味のある人間達に竜の文化で交流していく。

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