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文字数 1,032文字

 *

 電車の扉が開くと同時に裕海は改札に向かって走ってゆく。速度を緩めることなく外に出て向かった先は約一か月ぶりの暁人の病院だった。毎週通っていた時には当たり前だった病院の匂いも、たった一月の間で“懐かしい”に変わってしまっていた。あの時と同じルートを速足で通り抜けてゆく。
 エレベーターを降りてまっすぐに暁人の病室へ向かった。あれからどうなったか分からない。流石に一か月も経ったからまたあの時と同じようにプレイルームで遊んでいるかもしれないし、比較的病室にいるようになったかもしれない。でもそんなのはどっちでもよかった。一刻も早く、顔を見たかった。
 病室の前に着いた時、やはり扉はいつもと同じように閉まっていた。勢いに任せて開けてしまいたくなるのを抑えようと、一度呼吸を挟む。そして扉に手をかけた。
「――裕海くん?」
 そのまま開けようと力を入れたその時だった。裕海の横側から女性の優しい声が聞こえてきた。パッとその方向へ顔を向けると、そこにはやはり加奈絵がいた。傍らに以前と変わらない元気さを取り戻した暁人を連れて。
「ゆうちゃん!? ゆうちゃん! やっと来た!」
 裕海が声を発する前に、暁人が嬉しそうに笑いながら駆け寄ってきた。
「暁人……!」
 そんな暁人を見て、裕海は思わず跪いて近づいてきた暁人をそのまま自分の腕の中に引き寄せてしまった。急に抱きしめられた暁人は「えっ、どうしたの?」と目を丸くして驚く。
「ごめん。暫く会えなくてごめんな、暁人」
 そう言いながら一度暁人を放した。そして立ち上がり、今度は加奈絵と向き合う。
「この前はすみませんでした、いきなり病室から出て行ってしまって……」
 加奈絵も一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐににこりと笑った。
「大丈夫よ、全然気にしてないわ。それよりほら、中に入ってお話ししましょう?」
 暁人は室内に入って自分のベッドに腰掛けるなり「まさか帰ってきた時にゆうちゃんがいたとは思わなかったよ」と言った。丁度プレイルームで美希と話してきた帰りだったらしい。
「なぁ、暁人。あれから大丈夫だったのか……?」
 恐る恐るそう訊く裕海の前できょとんとした暁人だったが、何のことを訊かれたのかを理解すると「あぁ!」と軽く手を打った。
「うん、大丈夫! あの日はつい、自分でも無茶なことしたなぁって……でも大人しくしなきゃいけなかったのはちょっとだけだったし、全然平気だよ? ゆうちゃんあの日に来てくれたって聞いて、ずっと会いたかったのに」
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