07

文字数 1,168文字

 裕海と奏がこうして話すようになったきっかけは、一年目の夏休みも過ぎ去って暫くした昨年の十月の半ばのことだった。
 必修である語学の授業で、前期は普通の座学だったはずなのだが、後期になって何故か先生が突然「後期ではグループを作って英語劇をやってもらいまーす!」と笑顔で言い出したのだ。堪ったもんじゃあない。一体誰得なんだそれは。
 後期は成績をその劇とテストでつけるということだったので、結局後期の初めの方は前期同様の座学だった。そして十月の半ばになって、そのグループを作ることになった。「好きな人と組んで構わないけど、あまりにも決まらないようなら先生の方でテキトーに決めるからね!」という言葉から相談タイムがスタートしたのだが、特定の人とつるむことがなかった裕海は「まぁ余った所にテキトーに入らせてもらえばいいか」と他人事のようにぼんやり考えていた。
『なぁ、金澤くんだよな?』
 すると騒がしいグループ分けが始まって割とすぐに、裕海に声をかけてきた一人の男子学生がいた。
『え、あ、うん。えっと……近藤(こんどう)くん?』
『そうそう! 俺の名前把握してくれてたんだ。嬉しいなー』
 その男子、近藤(こんどう)(そう)はニッと笑って言葉を続けた。
『金澤くんさ、もしメンバー決まってないなら俺と組んでくれないか?』
 思ってもいなかった言葉に、裕海は驚いた顔をしたまま固まってしまった。近藤奏は器量もよく、性格も明るく社交的なため、クラス内に留まらず学科の中でも色んな人から慕われている人物だった。いくら人間関係に疎くて他人にあまり関心のない裕海でも、近藤奏のことなら噂をしばしば耳にするくらいには知名度の高い人物だ。
 そんな人が、何故俺なんかと? この人なら仲いい人だって、他にもたくさんいるだろうに。
『い、いいけど……何で俺と?』
 グループの人数合わせで声をかけられるなら想定内だしそれが望みでもあったのでともかく、この時は奏もまだ誰ともグループを組んでいなかったのだ。奏は少しチャラそうな見た目の割にかなり真面目な人だとも噂されているほどなので、彼とグループを組みたそうにしている視線が裕海の横からチラチラと向いているのが分かった。それを気まずく感じながら思ったままを素直に口に出すと、奏が今度は声を上げて笑った。
『ははは! やっぱり金澤くんって面白そうな人だね、思った通り』
『えっ?』
『前から気にはなっててさ、一回ちゃんと話してみたかったんだよね。よかったらこれを機に仲良くしてくれよ。なっ』
 全く嫌味のない笑顔と気軽ながら上辺っぽさを全く感じない言葉でそう告げられ、その勢いに引き込まれるように「分かった……宜しくな」と裕海は呟いた。
 だけどそんなことを言ってもどうせ一時的なものとして終わるんだろうと思っていたこの関係も、何だかんだでずっと続いていて今に至るのである。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み