05

文字数 1,307文字

 その翌日から裕海が退院するまでの間、二人は毎日顔を合わせるようになった。最初は食堂の窓際だったが、時には暁人が裕海の病室を訪れることもあった。その間に二人はすっかり仲良くなり、その時から歳の離れた兄弟同然のようになっていた。その仲良しさは、裕海が退院すると決まった時に暁人が「やだやだ! ゆうちゃん行っちゃ嫌だ!!」とかなりの勢いで泣き喚いたほどだった。
 勿論裕海も同じくらい寂しかったのだが、この時裕海は高校三年生で大学受験をこの先に控えていた時期だった。ただでさえ入院して遅れていた分を取り戻さなくてはならなかったので、お見舞いに行きたいと思っても行くのが難しい状況であった。
 きっともう、この子に会えることはないのかもしれないな……。
 そんなやり切れない思いを抱きながら、裕海は病院を後にした。

 *

 しかし思わぬ再会をしたのは大学に入学した後、二年目の春のことだった。
 裕海が進級してから約一週間後、彼の祖母が自宅で転落して怪我をして暫く入院することになった。金澤家と祖父母の家は割と近くにあるため、祖母も裕海が入院していた病院と同じところへ行くことになった。裕海の通学定期の範囲内にその病院があるということもあり、裕海は授業が早めに終わる曜日は顔を出すようにしていた。
 彼女が入院し始めて約一週間が経過した頃。その日は週末で、金澤家全員でお見舞いに行っていた。丁度向かった時間帯が昼だったのもあり、皆で病院の食堂で昼食を摂ることになった。入院当初よりは大分不安も和らいできた祖母と、和気あいあいと会話をしていた時だった。
 ふっと裕海の視界に映った少年がいた。顔を見た瞬間に、過去の映像がパッと脳裏を過る。その少年の顔は確かに見覚えがあった。
 まさか。
 一度そう思ってしまったら、食事の最中とはいえども追いかけずにはいられなかった。家族に呼び止められたのも振り切り、小さな背中を速足で追う。
『――暁人!?
 追いつくや否や少年の背後からそっと肩を掴み、記憶の中の名前を呼んだ。引き留められた少年は素直に振り向く。目が合うと、無表情と驚きが混じったような表情で少年は裕海を見た。理解するのに少し時間を要したのか、彼が口を開いたのは数秒後だった。
『え! ゆ、ゆうちゃん!? だよね!?
『お前やっぱり、暁人だよな? 俺の絵、いつも見に来てくれてた……』
 当時と比べると一年半ほど間が空いていたため、幾分か大人びた顔つきにはなっていたが、愛嬌のある目元は当時と全く変わっていなかった。裕海がそこまで言った時、暁人は彼にぎゅっと抱き着いた。
『ゆうちゃん! ゆうちゃんだぁ! また会えた……!』
 とびきりの笑顔で喜ぶ暁人を見て、裕海は腰に抱き着いた暁人の頭をわしゃわしゃと撫でた。単純に、嬉しかった。もう会えないだろうと思っていた人にこうしてまた会えたことが。
 暁人の向かおうとしていた先には、椅子に座っていた加奈絵がいた。息子の突然の再会に目を丸くしていたが、裕海と目が合うと懐かしそうに微笑んで小さく頭を下げた。
 この日を機に、祖母が退院した後でも裕海は毎週この病院を訪れて暁人に会いに行くようになったのだった。
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