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文字数 988文字

 三人からのメッセージもダンスで繋がった人たちからのそれも、見る前に全て消した。そもそも、アプリごと全て消してしまった。会いたいと言って病院の方まで来てくれたことも何度かあったのだが、母親に全て断ってもらった。それくらいにはぐちゃぐちゃになってしまっていた。
 自分を認めてもらえる場所がなくなってしまった気がした。そしてそういう場所を失うことの怖さを知った。認めてもらっていることが当たり前のような環境になっていたからこそ、もう一度こんな気持ちになるのは今から怖かった。
 全て投げ出したくなって、全てから逃げ出したくなった。
 夢中になれるものがなくなり、その代わりに空いた時間の空洞を埋めたのは得体の知れない恐怖だけだった。何もしていないとその恐怖が襲い掛かってきて、頭がおかしくなりそうだった。
 それから逃れるために何かしなくては、と思って最終的に辿り着いたのが絵を描くことだった。何かに向かって手を動かしていればこんな恐怖も忘れられると思ったのだ。裕海は、自分が何か好きなことを始めれば一気に集中出来ることを自分で分かっていた。
 そうしているうちに食堂の景色を写生するほどに夢中になり、抱いていた恐怖感も少しずつ薄れ始めていた。そのタイミングで、暁人と出会ったのだ。
『お兄ちゃん、何描いてるの?』
 自分の家族と病院の人以外で誰かと関わるのは、入院してから初めてだった。正直他人と必要以上に関わりたくはなかったのだが、相手は小さな子ども。なんとか平静を装って返事をした。
『ん? ほら、この風景だよ。スケッチしてたんだ』
 へぇ、みたいな返事が来るのを予想して、早く会話を終わらせようと思っていた。しかし暁人は、裕海の絵に興味を持ってこう言ったのだった。
『すごい、写真みたい! これほんとにお兄ちゃんが描いたの!?
『お兄ちゃん、またここに来る? お兄ちゃんの絵、また見てみたい』
 ダンス以外のことでこうやって褒められたのは初めてだった。今までずっと、自分の努力と才能が認められてきた。こんなことがあっても、後にがっかりされるのが怖くても、やはり裕海は自分のことを認めてほしかったのだ。びっくりはしたし恐れも多少はあったもののそれがなんだか少し嬉しくて、裕海は思わず笑みを零して言った。それは、相手が子どもだったこともあったのかもしれない。
『うん。俺は明日もまた、ここに来るよ』
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