16

文字数 1,040文字

 *

 それからまた少し経った、別の梅雨の日。相変わらず雨が降っている。裕海と奏は今日も一緒に食堂の椅子に座って話をしていた。
「はー、今日も雨かよ」
「まぁ梅雨だしなぁ……あー、さっさと梅雨明けしねぇかな。全っ然明ける気配ないんだが」
「それは奏の気が早いからだろ。まぁそろそろ六月終わるけどさ」
「えー」
 食堂にいるとはいっても今は昼休みではなく授業の空きコマの時間なので、昼時に比べると人気は少なかった。窓越しに外の景色を眺め、奏は不満そうに溜息をついていた。気圧に弱いため雨が降るとよく頭痛がするのだという。
「奏って普段はよく笑ってんのに、雨の日だけめっちゃ顔しかめてるから面白いよな」
「何それ、貶してる?」
「いや、笑ってる。……あ、ごめん、嘘」
「お前なぁ、誤魔化すのも嘘つくのも下手くそなんだよ」
 奏はしかめっ面で呆れたようにそう言った。その表情と気怠げな声のせいで怒っているように見えた裕海は思わず黙ってしまう。それを感じ取ったらしい奏が「あ、いや、怒ってないから安心して。ごめん。悪いけど今日、ずっとこうだと思うから」と言うと、裕海はそこでようやく安心した。
「なぁ、奏」
「ん?」
「突然だけど、変なこと訊いてもいい?」
「……ん? いいけど?」
 裕海にはずっと奏に訊きたかったことがあった。しかしタイミングを逃したり忘れてしまったりと、何だかんだで今まで訊けなかったのだった。今なら訊けるかなと思い、裕海は引き続き言葉を繋ぐ。
「奏って何で俺と一緒にいるの?」
 その問いに対し、奏は一転して目を軽く開いたポカンとした表情を浮かべた。
「……え、何その質問」
「ごめん、でもずっと訊きたかったんだよ。だって奏は皆から好かれてるし、仲いいし、俺とは本当に対照的だから、いつもその理由が気になってて……」
「ふはっ、ほんと何だそれ! はははっ」
 裕海がそこまで言ったところで奏は驚いた顔を崩して笑い始めた。今度は裕海が驚く番だった。怪訝そうな顔はされてもおかしくなかったが、まさかそこで笑われるとは思ってもいなかったのだ。
「お前、ずっとそんなこと気にしてたのか? なんかもう、色々通り越して最早ウケるわ」
「そ、そんなウケるもんか……?」
「だって友達と一緒にいる理由なんか一つしかねぇだろ。俺は今いる人たちの中でお前が一番好きだし居心地いいなと思っているから一緒にいるんだよ」
 先程のしかめっ面も頭痛もどこへ行ったのやらと思うほどに奏は笑っていた。ここまで彼が大笑いするのも中々珍しいことだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み