昂然

文字数 930文字

ごきげんよう。いかがお過ごしかな。

ほう、気分が優れないとは。余が傍に居ながらどうしたことか。
では言の葉の薬を煎じてしんぜよう。麗しの君、貴方だけに。


さて。まずは君自身のことを正しく知ろう。

君は今、何処に不調をきたしていると思う。
薬を欲しているのはどの部位だろう。
頭、胸、腹、足。

否、心だ。君の(ちゅうしん)だ。

無意識下で自らを否定し、自信の生成を止めていることに気づいているだろうか。

何故かように否定するのだろう。
その命を。
何故左様に自信を拒むのだろう。
根拠など不要なのに。

では。君は己をどう認識しているだろう。
唯一不滅の友と思わないかい。
決して離れず裏切らず、一切を認め信じてくれる存在であると。

生まれてこのかた、その心が逃げ出したことはあるかな。
その記憶が、その理性が、羽根を震わせ(かご)を発ったことはあったかな。
あったとして、それは墓石の下の民と会合するとき。
君が天使になったときだ。

しかし、君はこうしてここに居る。
余の隣で立派に鼓動している。

もしも心が逃げ出した心地でいるなら、しばらく余の隣で休むといい。
余の響きに、懊悩も堪らず去っていくことだろう。
そう。頼るといい。君はもう充分にやってきたのだから。
そのあたりも正しく観ていけるよう、しばらくここに居させてもらおう。

自信がないならそれでいい。
自信が持てなくても今はいい。

ただ、選ぶといい。
否定より受け流そう。
責める必要はない。そういうこともあるのだと、通過点として観ると楽だろう。
そう、選ぶといい。
君が快適に居られる解釈をするといい。

都合が良すぎる、だって?
君はやはり真面目だね。
いいのだよ、自己都合で進めたって。
他でもない、君の時間を費やすのだから。

その時間をどう使おうと、その心をどう扱おうと自由であることは理解してもらえていると思う。自由であるということは、一方で制御必須ということも分かっていると思う。放縦させればただ摩耗するのみであることも、体感しているはずだ。

余が何故騒々しくも頑として伝えているか。

余は君に幸福で在ってほしい。故に進言する。
楽に生きるといい。
肩の力を抜いて、己に都合良く。

さすればいずれ、必然に、余の音が内を満たして永遠の伴侶となるだろう。

我が名は昂然。
君との協奏を待ち望む者である。
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