16.僕のひとりごと。結婚の意味

文字数 1,081文字

「これからもずっと、一緒にいたい?」

僕はそう聞いた。素直に聞いた。そして貴方は言った。



「じゃあ聞くけど、俺の子どもほしい?」



ごめん、即答できなかった。僕の沈黙に溜息で返答し、続けて貴方は言った。「結婚て、そういうことだと思うけど」




これでようやくわかった。僕は貴方と家族をしたいわけじゃない。貴方と、幸せになりたかったんだ。僕にとっての結婚は、そういう意味だった。

そこに「子孫を残すこと」は必須でなくて、「姓をお揃いにすること」も義務ではなくて、貴方のいちばん近くで貴方を愛したかった。ただそれだけだった。自分勝手でごめんね。本当にごめんね。

貴方と一緒になること。僕はそこに未来を見ていた。貴方と僕の未来だ。それが引き起こすであろう周囲の変化も予想していたよ。親族、血の繋がりは強いから、これまでと同じように付き合いは続いていくでしょう。友達、これまでと同じように下の名前で呼び合うでしょう。会社、これまでと同じ仕事をこなしていくはずです。社会、僕のカラダはどこにもいかずこのままで、このまま在り、僕は僕であり続けるはずです。ふたりが一緒になって変わるのは恐らく外側の目の方。そう思ってた。

僕はふたりを見ていたけれど、貴方は未来の家族を見ていた。貴方が美しいと思う未来を待っていた。僕はその未来の姿を満たせなかった。貴方の隣にいる理由がなくなった。

大好きだったよ、嘘じゃない。ずっと一緒にいたかったよ、嘘じゃない。世界で一番大切だったのに、未来の待ち方が違った。本当にごめんね。


僕は人として持って然るべき「子孫を残したい」という願望が弱いのかもしれない。環境がそうさせている部分もあるでしょう。自分に自信がないからもう一人の幼い家族を支える勇気がないのも事実だ。そして僕には生まれながらの欠陥があるから、それを残し伝えたくない気持ちもあったりする。これらはまるで蔦のよう。一本ならすんなり千切れるのに、絡まると頑丈、手が出ない。自分に克てず、こんなに弱い僕でごめんね。

お願いしたのはこちらなのに、僕は貴方に絶望的に見合わない。最初からずっとそうだった。最初からそうであると知りたかった。気づくまでこんなにも時間を貰っちゃってごめんね。僕は本当に馬鹿だね。



ああ。大人同士が愛し合うことと、家族同士が愛し合うことの意味は違うのかな。重ねた肌で感じ取れるものが違うのかな。家族にならなかったからわからないけど、いまはもう何を言っても言い訳に過ぎないね。




ねえ。最後に一つだけ、甘えさせて。










「僕のこと全部忘れて。最大限に際限なく嫌っていいから。だからどうか、幸せになってね」
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