愛したいあなたへ

文字数 1,087文字

人が眼を持って生まれる限り、大事なものを()でずにはいられません。
その両手があるから、大切なものを包みたくなるのです。
言葉を得たのなら、それはきっと、届けるため。

けれど、思うように行かない、そんなとき。
愛し方を、忘れてしまったかのような感覚に襲われたとき。

気にしなくてよいのです。
難しく考えることはないのかもしれませんよ。

だってほら。

すぐそばで、笑っていたい。
その願いは、色褪せていないでしょう。

あなたの想いは、消えていません。
あなたの中から、抜け落ちることはきっとありません。

もし、抜け落ちたように感じるとして、きっとこんな心地でしょう。
ぽっかりと、心に穴が空いたような、虚無感との遭遇。
広い心にも底があったとして、けれど目の粗い格子のような底で、何が入っても留まれず通り過ぎていくような感触が離れないとき。

その格子を置いたのは、あなた自身です。
痛みが固着しないよう、風通しをよくするために。あなたの、ために。

もうそろそろ、どうでしょう。
お花でも飾ってみませんか。

たとえば芍薬。幾重にも重なった花びらが、喜びをそっと受け止め大事に育ててくれたら嬉しいですね。
たとえば百合。穏やかに甘い香りが、胸の奥をひそかに照らしてくれたら和やかですね。
あなたの好きな、あなただけの花園を、あなたの中に。
吹き抜ける風は心地よいまま、不要なものは留まれない、護られた世界。

あなたにはできます。そう望むなら。
あなたならできます。だってもう、風の読み方を知っているから。


格子の向こう側に見える姿、過去の影。
どんな言葉を置いていったとしても、どんな苦痛を植え付けたとしても、どんなに嫌いで大嫌いでも、もうそれは、花園に残すに値しない過去です。その手で刈り取って、さよならしましょう。

それはひどいことではありません。非道でも冷酷でもなく、あなたがまた笑うためのおまじない。

大切な存在のそばで、心から笑える日を迎えるために。


あなたは愛していい。あなたを。
あなたは愛していい。あなたが大切だと想うものを。


一度何かを嫌いになって、二度と何かを愛せなくなることはないと思うのです。
だってほら、それは才能や機能ではなく、息をするのと同じように、自然なことだから。

正しい愛し方、正しい愛のかたち。それはきっと幻想。
ここには正誤も制度も精度もなく、ただ深度があるのみ。
心地よい深度は人それぞれで、優劣はなく、ただそこにある自由と解放。

ほら、ね。
心が呼んでいるでしょう。

蕾をあなたに届けたいと、両手を広げて待っているでしょう。



さあ、いってらっしゃい。
私はここで、風と歌いながら、始まりのお知らせを心待ちにしています。

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