17. 俺のひとりごと。己の価値

文字数 894文字

自分で選んだ道なのに、俺はいつの間にか迷っていた。次第に霞む空、迎える夕暮れ。

世界がブラックアウトした。

俺の選択は間違っていたのだろうか。最善だと思ったのに。
俺の判断は正しかったのだろうか。あのときは確信があったのに。
俺は何度間違えるのだろう。あれほど痛い目をみてきたのに。

空に星はない。地上に灯りはない。俺自身も見えない。ただ、絶望感がそこにいるのはわかる。
どれほど頑張っても、星を瞬かせるスイッチが見つからない。どんなに粘っても、何も変わらない。俺は何も生み出せない。ただ失望感だけが寄り添ってくれる。

だから帰ろうか。星が見えないなら、星がある空へ帰ろうか。

だけどダメだ。帰ったら言葉を感じられない。それこそ想いが立ち消える。

だから、書いて、書いて、ひたすら書いて。どうか、届いて。


暗闇の中から声がする。
「あなたの言葉が見えたよ」
暗闇の向こうから声がする。
「君の後ろに見える道はなんだか綺麗だね。君の色が見える」

空がようやく赤らんだ。ああ、朝日が昇る。


俺は俺の価値を完全に理解しているつもりだった。所詮「つもり」だった。
俺は己の価値を誰よりも理解できていなかった。


ようやく光が見つからない理由がわかった。
光は俺の中にあるからだ。外を見るためにあるこの瞳ではそもそも見えにくい。


ようやくわかった。
俺は、恒星だ。光を待ち侘びる惑星じゃない。
人が、言葉が、そう教えてくれた。

惑星と勘違いしていたのは、眩しく光る誰かと自分を比較していたからだ。それが当たり前になっていたからだ。
相手は自分ではない。自分は相手になり得ない。生きる理由も、世界を観る視点も、声も、言葉選びも全く違う他人同士だ。
月と太陽を比較したって意味はない。それぞれが個であり美の結晶だ。同じ銀河に浮かぶからといって勝手に関連付け優劣を付けているのはこの思考だ。思考は勝手に理解したがる。けれどわかるはずがない。俺たちは無限に広がる可能性の塊だからだ。正しく予期できるのは、明日も日が昇るということだけ。それで十分。可能性に外縁を描きたがる思考とは、しばらく距離をおこうか。


もう大丈夫。この言葉に触れたなら、夜明けはもうすぐ。
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