68 星を見る

文字数 2,843文字


みんなが片付けをして解散して散っていき、リゲルや妄想チームと一緒に外に出ると、ファクトはエリスに呼び止められた。

「ファクト、少しお話よいですか?」
エリスが手を指した方を見るとカストルがいた。みんなの行く先だけ聞いてカストルの元に行く。近くに数人のおつきの人がいた。

「総師長。半年ありがとうございました!」
「こちらこそ。楽しかったかね。」
「はい!元の学校の友達から、部活に来いってずっと怒られていますが。今ならもう少し部活でも活躍できそうです。」
「そうか。期待の星だな。今度、チコとはデートするのかね。」
「はい、一緒にSR(シェルローズ)に行ってきます。」
「お母さんと仲良くやるんだぞ。」
「はい!」

素直なのか何も考えていないのか。性格は父親に似ていると聞いたが、それともまた違うと思いながらファクトの答えを聞く2人。

「少し星を見てあげよう。生年月日と生まれた時間は?」

時間までは知らないので出産情報を調べる。カストルは生年月日と時間を聞くと、付き人に渡されたノートに何か書きこんでいく。四柱推命とか算命学とかいうのだろうか。いろんな線や枠を引いて数字や漢字がどんどん書かれていく。

「これも武道のようにいろんな流派があるんだよ。国でも多少違うし。」
「へー。」
と、間抜けな返事をする。

「ほお、これはおもしろいな。」
エリスものぞき込む。
「…まあ、長生きはしそうだな。」
「そうですか!ありがとうございます。」
「親のように目立つ人生ではなさそうだが、星回りはいい。」
「母さんやチコを見ていると大変そうなので、ほどほどでいいです!」
「今のところだがな。」


「こちらに来なさい。」

カストルが、目の前に立ったファクトの胸に手をかざす。

少し時間が経つと、カストルから青と黄金の光が視えた。
何だろうと思いつつも黙って見ることにした。

次に額に手をかざす。1分ほどしてカストルは手を下げた。


「たくさんの星が集まってきている。」
「…はあ。」
「織女星だな。
どの星も大切にしなさい。でもどの星もそれぞれの位置に送り返してあげなさい…」

「はい…。」
よく分からないが返事だけはしておく。

「君が掴んでいい星は1つだけ。全てが元の位置に去っていった後に…1つだけだ。」

少し考えている。
「…チコと…ポラリスの元にしっかりといるように。」
「はい。」

「………。」
他に言葉がないか待つがカストルは笑って、これで終わりだと言った。

そして短い祈りをくれ、
「少し大変だろうが、ミザルをよろしく頼む。」
と言って手を振って見送った。



***



「マリアスにも勝てなくて…ファクトにも投げられた…」
気がすまないのはムギである。ダズっと固定ミットにパンチを打ち込む。

飲み物を買って小さいスタジオでくつろぐ女性陣。

「私も1センチ背が伸びてたんだよ!なのに、なのに…。」
朝夕の1センチ差は伸びたに入らないと思うが、黙っていてあげる響。
「やっぱり男になりたかった…。そうでなくてもマリアスみたいになりたかった…。」

体格でもスタミナでもパワーでもサイコスでも負ける。技術でもあっという間に追いつかれそうだ。
ファクトは大学に行くか悩んでいたので、確実に頭でも負ける。ムギには大学という選択肢どころか、受験で高校に行くという選択肢すらなかった。行けるところに行くのである。藤湾の通常クラスなら行けるであろう。学区だ。

奴には、法律上チコの正式な弟という名目があり、ムギはプライベートでベガス以外チコと2人で出歩くのも禁止されていた。半亡命者でもあるからだ。いつも帽子をかぶっているのは、外では顔を隠すためでもあった。SR社のイベントに行けたのは、SR社はムギのことを把握しているからである。

あんなとぼけた高校生男子に、勝てる要素が1つもないとは。

「あるよ!」
リーブラが励ます。
「女の方がお得だって言ってたじゃん!」
「何?」
「一緒にお風呂に入れる!」
はあ?と顔をしかめるムギ。
「垢すりしよう!」
「だから自分は銭湯に行かないし。」
チコも銭湯にはいかない。

「一緒の布団に寝れる!」
ファイが言うが、チコは役職上みんなと距離を取っているし、許可がないとチコのマンションにも行けないし、別に寝たいわけじゃない。
「背中に薬を塗ってあげられる!柔らかいのかな?筋肉なのかな?ふふ。」
ファイの頭がいよいよ理解できないムギ。それがいったい何なのだ。思わず変な顔になる。

「あんな大人にならなくていいよ。」
これは危険だとハウメアが言い聞かせる。女子でつるむことはしないハウメアだったが、みんながいるこの空気は好きだった。

「あ!そうだ!ムギちゃんサウナに行こうよ!前言ってたじゃん!全部終わったし!」
「行かないってば…。」
「裸じゃなくて、Tシャツ短パンで行くところだから!岩盤風呂とか、蒸しヨモギ風呂とかもあるよ!最後は個室のシャワーもあるし。一緒にフルーツ牛乳飲もうよ!」
「行こう行こう!卒業旅行はサウナにしよ!」
「イータはカフェとかで外で休んでいればいいし。」

この前は倉鍵の話、そしてサウナ。全く話に付いていけないムギである。



***



SR社の一角。


その頃シリウスは数え続けたカレンダーを何度も眺める。

自分の中には永遠と思えるほどの月日が計算されていたが、壁に掛けてある紙のカレンダーが好きだった。

頭の中の物はぼやける。メモリーはされていても膨大な情報の中に埋もれてしまう。触ることもできない。

でも、壁にあるカレンダーはいつもその時軸のその次元、その座標に自分を引き戻してくれる。ここに自分がいるんだと安心できた。ソファーの背もたれに顔を倒してカレンダーをじっと見続ける。


ファクトがベガスに行ってしまったことは知っている。たくさんの新しい知り合いもできたそうだ。でも、おかげで全くアクセスできなかった。家にも戻らないし、デバイスのアプリもほとんどログアウト状態。

ベガスはデジタルニューロスの侵入を防御する力も持っていた。幾つかハッキングが起こっているが基本県外で起きてから、実体的にベガスに侵入した勢力である。シリウスが侵入できても発覚すれば国際問題になるだろう。アンタレスや東アジア連合からも入れない。

どんなにデジタルの世界が進化しても、人間の心ひとつで世界は回っていくのだ。

それに、デジタル社会の届かないところでも、最も全てをよく見ることができるものが霊性だ。
けれど自分には、全くではないが基本無い力である。


シリウスの世界はシリウスを満足させなかった。


人類が残した多くの情報、その中で、知識や博識としてあるものでなく、個性を持った情報の多くは自分を混乱させるだけだった。そして人間が前時代から残した情報の大部分は、シリウスにとって辛い物、くだらないもの、落ち込むだけのものだった。


ほんの少しだけ欲しいものは、自分の持つ情報の中にない。
人間より人間を知っているのに、自分の手に掴みたいものも掴めない。


そのままソファーに寝転びため息をついた。


でも終わる。この期間が終わった。

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登場人物紹介

心星ファクト(しんぼしファクト)主人公1


中間層地域、中央区蟹目の高2。両親がニューロス界の世界的博士。性格はのんびり。可もなく不可もなく何でもこなせるみんなのハシゴ要員。みんなが思うよりはあれこれ考えている。

アーツではCチーム。

チコ・ミルク・ディーパ 主人公2


ユラス人。ベガス総長。基本真面目。

ムギ 主人公3


チコやカストルのお手伝いをしている。少数民族のベガス移民。非常に身軽でなぜが武器や大型バイクも使いこなす。世の中の出来事には動じないが、時々いろいろ勘違いして恥ずかしくなるタイプ。

カウス・シュルタン・オミクロン


チコの隣にいる爽やかお兄さん。

背が高いが、柔らかい雰囲気なので威圧感は下町ズほどではない。

サルガス


中央区大房民。Bチームの下。アストロアーツ店長で。アーツのリーダーになる。みんなのまとめ役で世話役。

ヴァーゴ


中央区大房。旧型バイクRⅡをこよなく愛する、アストロアーツ整備屋。サルガスの友人。顔は怖いが性格は穏やかでおせっかい。彼女いない歴年齢のアーツ最年長。Cチーム。これといってとくに活躍はしない。

タウ


中央区大房。元大手の営業で、トップパルクールトレーサーでもある。Aクラストップの一人。オールマイティー型。性格は良くも悪くも普通の性格。イータの彼氏。

流星イオニア(リウシンイオニア)


中央区大房。住まい自体は隣町。アーツ唯一の有名大卒。Aチームタウに並ぶトップで、元大手の営業。オールマイティー型で、何でもできるがタウよりは自由奔放。自由に生きてきたのに、なぜかここで一途な男になってしまう。

キファ


自由大房民。Aチーム運動神経トップクラスで、性格がしょうもない。子供かと言われるが本人曰く、「大房ではクールな男でした」と。

六連タラゼド(ムツラタラゼド)


中央区大房。空手の黒帯。チーム。自分からはあまり話はしないが、聞けば答えてくれる。

リーブラ


中央区大房ギャル。Dチーム。元アストロアーツのアルバイト。誰にでも当たりがよく優しい。何でも楽しいタイプ。

ファルソン・ファイ


中央区大房。Dチーム。元バンドのおっかけ。メイクや洋裁もできて器用。萌えたいタイプで好きなことだけして生きたいタイプ。タラゼドの幼馴染。

サラサ・ニャート


東アジア人。VEGAベガスの総務で、アーツの隠れサポーター。

レサト


一見カッコいいが、性格がダルくてテキトウな藤湾高等学部の学生。

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