42 試用期間Ⅱ

文字数 2,410文字


「はいっ!今日から楽しく再開です!」
リーブラが楽しく点呼を取って、アーツベガスが再出発する。

「はい!」
ファクトが同じく楽しそうに挙手をする。
ここはどこだ。小1クラスか。
リーブラゆえに最初から締めが緩い。誰が最初の司会を人選したのだ。
「リーブラさん、もっとかっこよく始めてくれませんか?」
イオニアが気だるそうに言った。


「静かに!祈祷で始めます。」
一応エリスが来ていて、祈祷をして場を整える。めんどくさいが、エリスの言う事はよく聞く一同。

「……ではチコさんに席を譲ります。」
祈りの後、再出発に向けての話をしてから席に座った。
その直後…

ダン!!

「うお!」
ビビる下町ズ。

あまりの締まりのなさに横で聴いていたチコが遂に怒ったのか。
チコが無言で机に脚を(くだ)す。

下町ズが見ると、机が歪んでいるように……見える。

「………」
「チコさん?万物は大切にしてください。ね?」
ユラス人の信仰心に訴えるシグマ。
「机に罪はありません…。」
「あ?悪い悪い。」
そして、ごめんと机を撫でて壇上に立った。

「悪いのは貴様らだったな。一庶民には手を出せなくて思わず苛立ちが……」

うわー。怒ってる。

そして、壇上に立って挨拶もなしに怒鳴った。
「お前ら何のつもりだ!!」
衝撃波とか出てきそうだ。
チコは席を見渡し、すごい音でまた壇を叩くので、全員がビクッとする。
教壇まで壊さないでください。公共物です。

「おい!シグマ!なんだその頭は!昨日ファイが食べていたババロアか?」
なぜかシグマの頭がモッズピンクだ。ちなみにここにはいないが、リゲルはかわいい薄サクラピンクである。自分はアッシュピンクにして、3人並んだらかわいいのにとファイは思った。

「キファ!お前はジリの豚か!」
豚の貯金箱のことである。
「違います。美しきウンディーネです!」
「偉そうに言うな。」
きれいなマリンブルーヘッドをしている頭は、ジリのロッカーに置いてある貯金箱と同じ色だ。『いつでも僕に貯金してください。なるべく札で』と貼ってある。ほとんど現金持ちではないので、貯金してくれるのはヴァーゴとタラセドくらいだ。

「お前!なんだ!そのオレンジは!」
「え?僕だけ例えがないんですか?」
「そんなこと期待しているのか…。」
ローに呆れる。
「禿げるぞ。」
「えー!チコさーん!他のコメントをお願いします~!!」
「うるさい。」


あれから1週間。
何か溜まっていたのか、様々な頭で現れたアーツメンバー。

実は半分以上が家に戻らず、あれこれベガスのまちの整備を手伝っていた。ベガス南海の青年と混合チームまで作って、毎日バスケの試合もしていたらしい。運営からは何の進言もしなかったので、チコとしては何人かがダレたり、自分たちの街に戻って女をあさりにでも行くだろうと思っていたがそういうことはなかった。
もともと全員残ると思ってもいなかったし、先週の時点でさえ休み期間中に数人いなくなると予測していたので、実はベガス側が驚いていることを彼らは知らない。

その代わりこの頭である。一部メンバーは腕輪や指輪もジャラジャラしている。
こいつらの回路はどこに繋がっているのだ。

初めの頃ピアスもあれこれ付けている者がそれなりにいたが、筋トレ中ジャマであるし、汗をずっとかいていると膿んだりする。それに武道を習っていると、耳が潰れたり抑え込まれたり、蹴りでピアスが刺さったりすることもあるので結局外す。下手をすると頭蓋骨後ろに穴が開くので、ピアス率は減っていた。


「あのー。」
勇気をもってキロンが挙手と共に立ち上がる。
「発言してもいいですか?」
「許す。何だ?」

「カウスさんは?」
あー、お前!それを言うな!というメンバーと、それが聞きたかった!という様々な心が交錯する。

ダズッ!!!!

あー!ついに教壇まで壊してしまった。音がそんな感じ。
やっぱり触れてはいけない一言だった。

キロンが青ざめる。
「チ、チコさん、物は大切にしてください!」
「あ、ごめん。」
笑いもせずにチコが壇上を撫でる。
「弁償します。」
「当たり前だ。そっちの机と一緒に始末書も書いておけ。修理でいいなら修理に出すように。」
エリスが冷たく言う。


全員悟る。
カウスは戻ってこなかったのだ。

消えたのはアーツメンバーでなくカウスだった。

みんなに10周走らせて長期休暇とは。これで負け分を遂行したと言えるのか。
そして、チコがデカいスクリーンに衝撃の言葉を映す。


『今度は有給消化しま~す!』


と共に、1週間休むというメール。
カウスのメッセージか。

対女性に超ハンディを付けさせて、賭けに負けたのになんという神経!今回一番厚い(つら)の皮はカウスであった。その下に小文字で『有給代休計2年分ぐらいあります\(^o^)/!』という、コメントまで映し、チコは肘で教壇にさらに深いクレバスを作りため息を吐いた。

「お察しします………」
それ以外言葉がない。自分たちの相手をするのも疲れたのか。奥さんに落城されたのか。700日以上も有給を貯めさせた職場も職場だが。

カウスの立場は、どこかから送られた派遣のVEGAスタッフ扱いらしい。アジアに来てから働き詰めだと、時々来る教官が教えてくれた。そのため、軍役時代から休暇が溜まりまくっている。あまりに休みのない場合、退役するときに数年分消化することも多いらしい。退役までに亡くなった場合、家族に給与として支払われる。本当は2年どころではないほど使っていない。

「お前らもカウスに舐められているんだぞ。」
チコがイヤそうに言う。自分たちが立派でないのは知っているが、それはちょっとムカつく。
「まあいい。」
まあいいのか。

「全員今日の基礎トレをしてから移動する。バイクでもいいし、車も準備する。午前11時までに『ベガスミラ 藤湾学校内西中央講堂 第4駐車場B口』に来い。とりあえず駐車場で。10分前には来いよ。汗かいた奴はシャワーもしておけ。」
全員「??」だ。
取り敢えず準備してそれぞれ移動することにした。



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登場人物紹介

心星ファクト(しんぼしファクト)主人公1


中間層地域、中央区蟹目の高2。両親がニューロス界の世界的博士。性格はのんびり。可もなく不可もなく何でもこなせるみんなのハシゴ要員。みんなが思うよりはあれこれ考えている。

アーツではCチーム。

チコ・ミルク・ディーパ 主人公2


ユラス人。ベガス総長。基本真面目。

ムギ 主人公3


チコやカストルのお手伝いをしている。少数民族のベガス移民。非常に身軽でなぜが武器や大型バイクも使いこなす。世の中の出来事には動じないが、時々いろいろ勘違いして恥ずかしくなるタイプ。

カウス・シュルタン・オミクロン


チコの隣にいる爽やかお兄さん。

背が高いが、柔らかい雰囲気なので威圧感は下町ズほどではない。

サルガス


中央区大房民。Bチームの下。アストロアーツ店長で。アーツのリーダーになる。みんなのまとめ役で世話役。

ヴァーゴ


中央区大房。旧型バイクRⅡをこよなく愛する、アストロアーツ整備屋。サルガスの友人。顔は怖いが性格は穏やかでおせっかい。彼女いない歴年齢のアーツ最年長。Cチーム。これといってとくに活躍はしない。

タウ


中央区大房。元大手の営業で、トップパルクールトレーサーでもある。Aクラストップの一人。オールマイティー型。性格は良くも悪くも普通の性格。イータの彼氏。

流星イオニア(リウシンイオニア)


中央区大房。住まい自体は隣町。アーツ唯一の有名大卒。Aチームタウに並ぶトップで、元大手の営業。オールマイティー型で、何でもできるがタウよりは自由奔放。自由に生きてきたのに、なぜかここで一途な男になってしまう。

キファ


自由大房民。Aチーム運動神経トップクラスで、性格がしょうもない。子供かと言われるが本人曰く、「大房ではクールな男でした」と。

六連タラゼド(ムツラタラゼド)


中央区大房。空手の黒帯。チーム。自分からはあまり話はしないが、聞けば答えてくれる。

リーブラ


中央区大房ギャル。Dチーム。元アストロアーツのアルバイト。誰にでも当たりがよく優しい。何でも楽しいタイプ。

ファルソン・ファイ


中央区大房。Dチーム。元バンドのおっかけ。メイクや洋裁もできて器用。萌えたいタイプで好きなことだけして生きたいタイプ。タラゼドの幼馴染。

サラサ・ニャート


東アジア人。VEGAベガスの総務で、アーツの隠れサポーター。

レサト


一見カッコいいが、性格がダルくてテキトウな藤湾高等学部の学生。

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