24 ファクトの乱入
文字数 2,278文字
次の日、よく眠った彼らは先日よりは大分元気だ。
「お前ら朝食食べんなよー。食べた奴、健康診断できないからな。今日はランニングもしなくていいぞ。」
サルガスが言う。今日できなかった者は自費とカウスに言われているので、みんな昨夜からきちんと守る。そして、簡単にストレッチと掃除をして病院に向かった。
「やべえ。久々に血い抜かれた…。」
「レントゲンとかも久々だな…」
「なあ、あのパコっとかするの何?」
「心電図だろ。100年前も同じことをしていたらしい。」
「マジか。なぜ進化していない。」
「『ぱこッ』を忘れたくない人がいるんだろうよ。」
「俺の骨密度は大丈夫だろうか…」
健康診断が終わった者から保健センターに移って身体測定だ。病院で測った身長体重以外も見ていく。
病院も保健センターも設備が下町の保健センターよりきれいで最新。一同は驚く。
「ちょっとなんで3サイズまで測るんすか!変態ですか!」
3サイズだけでなく、腿周り、腕周り、肩幅、足のサイズ、座高、頭周り、視力、色覚、聴力、体脂肪率、筋肉量、肺機能、脳機能…全部測っていく。
「何すかこれ?チコさんの指示ですか?座高とか要らないっしょ!頭周りとか嫌味っすか?」
「マジ座高とか必要?」
サルガスがたしなめる。
「うるさいな。お前ら進め。」
「なんか
「ヤバい所まで測られそうですね。」
余計なことを言い出す奴もいる。
「いや、お前らもういいからマジ、サッサと進め。」
そう言いながらもアーツもけっこう体格のいいものは多い。身長190越えるものも数人。中には軍人張りの者もいる。
みんなすごいな―と、平均以下のキロンやジリたちが驚いていた。
***
3日目。
「あーーー!うっぜー!!」
テストがめんどくさくなったメンバーが叫んでいる。
「体の後は適正、適応ってなんなんだ!テスト終わりっ!」
ヴァーゴは言う。
「俺の方がこの歳で今更こんなテスト受けて嫌だっつーの!」
「俺はおもしろいけど。」
「健康診断とか受けてなかったから、丁度よかったけど。」
全員が講堂に集まったくらいに、見慣れた奴が駆けこんできた。
「先輩!おはようございます!」
異常に元気な子供。
「ファクト?!!」
その通り。
ファクトである。嫌な予感しかしない。
「お前どこに行ってたんだ?」
「今日からこっちに参加します!」
「は?聞いてないぞ。」
サルガスが驚く。
「学校は?」
「休学してきた!」
「はあ?!!!」
「正式に半年休学してきた!」
「…」
講堂内が静まる。
「何言ってんだ。オカンに殺されるぞ!」
ヴァーゴが慌てる。
「てか、親の許可いるだろ。どうやってあのかーちゃんが許したんだ?!」
一部の面々は、ファクトの母親事情を知っている。
一度ミザルが大房に来たことがあるからだ。ファクトが中学の時、自分たちを鑑定するように見て、サルガスと何か話し合い帰って行った噂が広まっている。
「だから父さんのところに行ってきた!」
ニコニコ顔のファクト。
「え?お前のオトンは海外にいるんだろ。」
一番ファクトの事情を知るサルガス。
「で、行って来た!」
みんな意味が分からない。ちょっと飛躍し過ぎている。
「日曜の便で飛行機に乗って、首都のイオタにいたから、父さんに承諾を受けて今日朝戻ってきた。」
開いた口が塞がらないとはこのことだ。
「ミザル博士無視で?」
「父親の了承でいいでしょ。『がんばれ』って言ってた。」
サルガスがファクトにすごむ。
「お前アホか?!これ以上夫婦分裂の種を作ってどうする!」
いわゆるミザル無視で休学を決めたという事だ。恐ろしいことこの上ない。みんなが「そうか、夫婦仲の危機なのか…」と頷く。
「チコには話したのか?」
「え?チコの連絡先知らないし…。」
みんな呆然とする。
「お前、すごい時限爆弾をセットしたな…」
「地雷過ぎる…。」
「え?なに?休学だし?退学じゃないし。1億7千万のためには、やっぱ今の内から動かないと。」
「1億7千万?」
「すごい。単細胞生物ってこれのことなんだな…」
「単細胞生物でも、自然の理に沿って生きてるだろ。」
「先輩。それはひどくない?ちゃんと考えて動いてるよ。」
「母ちゃん無視してか?!」
ヴァーゴが怒る。
そこのところは触れられたくないが、ファクト的には母を通したら何もできない。いや、母の意に沿えば自活するにしても安定人生は送れるだろう。ヴァーゴから思いっきり目を逸らすと、タウと目が合う。それでその反対に逸らすと、サルガスが呆れている。
「一番避けていけないものを避けたな…。」
サルガスは、リゲルからチコとミザルの雰囲気を聞いていたので途方に暮れた。
「ファクト、ここには入れないぞ…」
「なんでだよ。」
「チコの立場がないだろ…」
「父さんは何かあったら協力するって言っていたけれど。」
「…はあ。」
「いい、母さんが乗り込んできたら、その時はちゃんと話すから。」
乗り込む前に、自分たちの知らないところでチコとひと悶着になりそうだ。
「申し訳ないだろ。話す気があるなら話してから来い。」
「でも適正診断は絶対受けたかったから。」
サルガスに対する答えになっていない。
ファクト的には適性診断に強い思いがありそうだ。でもそんなもの、お金を出せばどこでも受けられるだろ…とみんな思う。そのために海を渡ってきたのか。母に話す方が楽でないのか。エネルギーの使いどころが違う。
案の定。入ってきたカウスが挨拶をしようとした時、ファクトを見て固まる。
「あれ?ファクト君?」
「あ!カウスさん!おはようございます!1人追加できますか?」
というわけで、なぜかファクトが加わったのだった。