22 アストロアーツ

文字数 2,107文字



男どもがうるさいので、サッサと次の話に移る。
はっきり言って、チコにとってはまともなトイレとシャワーがあるだけで贅沢に思える。


「あと、お前らの呼び方めんどいから、まとめてアストロアーツを略し『アーツ』にしよう。そこの店の常連やスタッフが多いんだろ?」
「え…?折角大房を清算してきたから他のがいいです。」
サルガスが言うもチコが遮った。
「でも、店番任されて怒ってる奴がいるんだろ。連帯感を持たせ、仲間ってことで、感情を緩和してもらおう。」
いいことを言っているのか、適当にあしらっているのか分からない言い草だ。
ヴァーゴもうなずく。
「なるほど。お前も仲間だ!という事で…機嫌を取ろうと…。」

「子供じゃないんだから、そんな呼び方一つでほだされたりしないだろう…」
サルガスが言うが、周りがそれで推した。
「いや、いいんちゃう?分かり易いし。」
「それでいこう!」
というわけで、こちらは『アーツベガス』になった。アストロアーツ現店長シャウラを余計に怒らせそうだと、半分ほどのメンバーは思った。




「最終確認する。」
突如チコが大きな声を出す。

「嫌になった奴。死にたくない奴。私に命を預ける気のない者は今出ていけ。」
少し沈黙したが、誰も出ていかない。
「ここで言いにくい者は、今日中にカウスに伝えろ。」
チコをじっと見る者もいるし、周りを見渡す者もいた。
「…この後はマリアスに譲る。マリアスは生活や講習の面倒を見てくれる教官の一人だ。頑張れよ!」
そう言ってチコは、一礼をするエリスとともに颯爽と去っていった。

「はい?教官?」

全員呆気にとられる。
チコさん締めがテキトー過ぎやしませんか?



すると、マリアスというガタイのいい少し褐色肌の女性が国旗に敬礼して入ってきた。
壇上でも全員に一礼する。

(わたくし)、マリアス・ピーコックと申します。普段は護衛の仕事をしています。東アジア陸軍出身。だいぶ前に退役して子供も大きいので、皆さんは私の息子…みたいな感じかな。様々指導していきますのでよろしく。」

「は?」
また、「は??」が飛び交う。陸軍?

「カウス。あなたも自己紹介して。」
「あっ、えーと、わたくしは、カウス・シュルタン。チコ総長の補佐です。皆さんの教官役や生活のお世話なんかしますので、分からないことがあったら何でも聞いて下さい。そうですね、チコさんに言いにくいことは私に言って下さい。
他にもスタッフやいろいろな方がいますが追々ご紹介していきます。」
「はい?」
やさしく笑ったが、教官ってなんだ?職業訓練の講師とかじゃなくて?
みんな目が点だ。

コマちゃん事件を知るファクトたち3人は思う。どう見ても会う内のベガスの何割かは一般人じゃない。退役しているなら今は一般人かもしれないが元々何者なんだ。カウスも何か隠し経歴がありそうである。



「というわけで、今日はスケジュール把握と、部屋の準備をしてください。
明日から作戦の第1弾が始まります。」
「作戦?」

「そしてこれが、明日より金曜までの大枠です。
1日目は、学力、技能テスト。
2日目は、身体測定。健康診断。予防接種。
3日目は、適性、性格、適応力診断。
4日目は、スポーツテスト。体力テスト。
5日目は、サイコス、霊性テストです。」

はい??

作戦?
作戦って、スポーツとゲーム以外で聞いたことがない。

下町ズはいよいよ訳が分からない。
「何ですか?これ?」
「テスト??」

「ええ。どう陣営を組んでいくかそこから決めます。」
「陣営?」
部分部分言葉が怪しい。
「どんな作戦にも把握、戦略、トレーニングが必要です。頭脳派なのか。肉弾戦派なのか。」

肉弾戦って…、体力系と言ってほしい。仕事ならせめてガテン系とか。と思う。
そして、今の環境と自分たちの頭脳で、ホワイトはないだろう…と思う。ブルーカラーじゃないのか?1つぐらいホワイトチームも作れたらいいとは思うが。



全員が戸惑っている間に、ただ一人悔しがっている者、
ファクトがいた。

く、悔しい。俺も参加したい!テストしたい。適応力診断したい…!

リゲルがため息がちに見ている。
「ファクト、また変なこと考えるなよ。」

ファクトは脇役ぐらいのなんとなく陽キャ寄りキャラなため、とくに特徴がなかった。
自分の目指すべき進路も分からない。意志すら曖昧だった。程よく楽しく勉強もスポーツもできたので、特別際立って好きなことも分からない。安定職に就きたいなくらいに思っていたのに、先週の手伝いは楽しかった。仕事って楽しい。それに1億7千万円も返さなければいけない。おそらく事務は向いていない。
体力気力は有り余っていたので何かしたかった。

自分もテストを受けて、あれが向いている、これが向いていると指し示してほしい…。自分で自分が分からない…。うう。

ガタッ!

「うお!なんだ?!」

突然椅子から立って、外に行こうとするファクト。
「リゲル、明日学校休むわ!」
「は?おい?」
「先輩たち、今日は失礼します!頑張ってください!教官もさようなら!またすぐ来ます!」
「は?ファクト?」
「おい?夕飯は一緒に食おうぜー!」
「花札じじいたちが待ってるぞ!」
その声に答える間もなく、ファクトはどこかに行ってしまった。


そして明日も戻ってこないのである。


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登場人物紹介

心星ファクト(しんぼしファクト)主人公1


中間層地域、中央区蟹目の高2。両親がニューロス界の世界的博士。性格はのんびり。可もなく不可もなく何でもこなせるみんなのハシゴ要員。みんなが思うよりはあれこれ考えている。

アーツではCチーム。

チコ・ミルク・ディーパ 主人公2


ユラス人。ベガス総長。基本真面目。

ムギ 主人公3


チコやカストルのお手伝いをしている。少数民族のベガス移民。非常に身軽でなぜが武器や大型バイクも使いこなす。世の中の出来事には動じないが、時々いろいろ勘違いして恥ずかしくなるタイプ。

カウス・シュルタン・オミクロン


チコの隣にいる爽やかお兄さん。

背が高いが、柔らかい雰囲気なので威圧感は下町ズほどではない。

サルガス


中央区大房民。Bチームの下。アストロアーツ店長で。アーツのリーダーになる。みんなのまとめ役で世話役。

ヴァーゴ


中央区大房。旧型バイクRⅡをこよなく愛する、アストロアーツ整備屋。サルガスの友人。顔は怖いが性格は穏やかでおせっかい。彼女いない歴年齢のアーツ最年長。Cチーム。これといってとくに活躍はしない。

タウ


中央区大房。元大手の営業で、トップパルクールトレーサーでもある。Aクラストップの一人。オールマイティー型。性格は良くも悪くも普通の性格。イータの彼氏。

流星イオニア(リウシンイオニア)


中央区大房。住まい自体は隣町。アーツ唯一の有名大卒。Aチームタウに並ぶトップで、元大手の営業。オールマイティー型で、何でもできるがタウよりは自由奔放。自由に生きてきたのに、なぜかここで一途な男になってしまう。

キファ


自由大房民。Aチーム運動神経トップクラスで、性格がしょうもない。子供かと言われるが本人曰く、「大房ではクールな男でした」と。

六連タラゼド(ムツラタラゼド)


中央区大房。空手の黒帯。チーム。自分からはあまり話はしないが、聞けば答えてくれる。

リーブラ


中央区大房ギャル。Dチーム。元アストロアーツのアルバイト。誰にでも当たりがよく優しい。何でも楽しいタイプ。

ファルソン・ファイ


中央区大房。Dチーム。元バンドのおっかけ。メイクや洋裁もできて器用。萌えたいタイプで好きなことだけして生きたいタイプ。タラゼドの幼馴染。

サラサ・ニャート


東アジア人。VEGAベガスの総務で、アーツの隠れサポーター。

レサト


一見カッコいいが、性格がダルくてテキトウな藤湾高等学部の学生。

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