9 あの広場の真ん中で

文字数 4,245文字



「ファクト――!」

リゲルが叫ぶ。

と、弾丸の音とともに、もう1台横からバイク来た。
「え?!」
その乗車人物は、見えないほどの速さでガシッとファクトの腹を抱えそのまま走り去り、間一髪で攻撃をどうにか避けられた。

ドガーン!!と何かが弾け、また土ぼこりが飛ぶ。

散弾が観客席に放たれ、また様々なものが炸裂する。
「ファクトっ?!」
巻き込まれたと思ったのか、みんな蒼白だ。

その時、プラチナブロンドをなびかせた女性が、リゲルとツィーの近くにファクトを抱えたまま飛び降りた。ファクトの腹を抱えていった人物はこの前会った女性、チコだった。乗り捨てたバイクは走り去って自動で安全な場所に止まる。


かっこよすぎる。

ああ、これは…。
考えたくない。

そう…。

横抱き…。
おひ○様抱っことやらをされている。


バイクから降りる時によっこら持ち上げられ、先跳ぶときに抱き変えられた。
は、はやく降ろしてほしい…

降ろしてもらおうとモゾっと動くと背筋が凍る。下を見たら高いフェンスの上だ。なんでこんなところに立てるんだ。

チコは男一人を抱えたまま、いとも簡単に地面に着地するとリゲルの近くにファクトを下す。気まずくてお礼の一言も思い浮かばないでいると、またチコはタンッタンッと軽く飛んで、その身のままコマ2号に向かい、機体上部に乗った。

そして、すごい勢いで腰から外した銃らしき物を連結部分に向け打ち込む。素手でバリバリとコマの関節を外し、何かを送り込むようにコマに手をかざした。

そこに輪の光が放出され、電気らしきものを流れさせる。
少しだけ紫と淡くも鮮やかなピンクの光に、白い光があふれだした。

「……」
なんだろうと、呆然と見入ってしまう。

バチバチ爆発させるのかと思ったら、そのままコマは止まった。全員呆然とする。そして、コマを開くと無人らしい操縦席に乗り込み、何かを操作しすぐに外部に出た。グラウンドの方まで行ってしまったコマ1号も片付いたようだ。



コマをよく見るとどこかの警備会社の名前が書いてある。乗っ取りとかそういうのだろうか。なんだ?警備会社もこんなミサイルっぽい散弾砲を搭載しているのか?危険すぎるだろと、震える。
実は、公安の偽装機体なのだが一般人は知らない。


少し離れたところにいたヴァーゴもこっちに来る。

そして、チコがコマから出てきて、颯爽と自分の方に向かって来た。
「ファクト。大丈夫だったか?」
死ぬかと思った。正直声も出ない。

「……知り合いか?」
リゲルがファクトに聞く。
「た、たぶんVEGAとやらの…番長さんです…。」
やっと声が出て、チコを代理してみんなに紹介した。
「あ、ファクトがお世話になっています…。友人です。」
ツィーが仰々(ぎょうぎょう)しく挨拶をする。四者面談か。


「チコ―!」
今度はグラウンドからムギが駆けてくる。ムギも高い段差を軽々越えここにやってきた。弱いと思っていた少女が、バイクでレーサー顔負けの運転をし、レーザーを打ち込むのは精神に悪すぎる…。よく吹っ飛ばされなかったな。人間か?

「こんにちは。ムギちゃん。」
「なんなんだ!またお前か!」

「ファクトこっちに来て。」
しかしチコに呼ばれるのできついことを言いそうなムギから離れると、いろんなところを触られてしまう。
「痛いところはないか?」
「多分手をかすったぐらい…」
ムギがこっちを見て怒っているからやめてほしい。

「ほっとけ!チコ。」
「ムギちゃん怖いね…」
「…気持ち悪い。ちゃんを付けるな。」
「ん?じゃあムギ?」
「呼び捨てするな!名前も呼ぶな!」
え?じゃあどうすればいいの?

「ちょっと待て!ファクト、お前は自衛団…戦闘員にでもなりたいのか?!」
ツィーが焦っている。それはそうだ。まさか自分も戦闘に巻き込まれるとは思ってもみなかった。この人たちは本当に平和構築集団なのか?戦闘集団だろ。



…そうではない。

彼らがそうであっても、自分はそうではない。
青空学校の教師か、何か青年協力組織のようなスタッフになりたかったのだ。

「君たちもケガはないか?少しでも違和感があるなら今教えてくれ。全員ここに名前を記録しておくように。何かあったらあとで治療を受けられる。」
チコがみんなに安否を尋ねる。

「だ、大丈夫です…。あのここは…」
ヴァーゴがいろいろ聴きたいようだ。
しかしムギが割り込む。
「コマが暴れているから避難指示が出ていたんだ。お前らなんで知らないんだ。」
怒るのも当たり前だ。下手をしたら…チコがこのタイミングで来なかったら…死んでいた。
通行止めの場合、道路にもナビにも表示が出るはずだが、もしかして交通標識も乗っ取られたのか?と考える。

「調べてもらわないとな…」
チコがため息をつく。
「でもそれは管轄外だ。警察に対応してもらおう。」
頼むという事は、この人たちは警察ではないのだろう。

「ここで少しおとなしくしていてくれ。すぐ戻る。」
チコがコマ1号に向かう。そちらでは何人かの男性たちが対応していた。ファクトはここにいる男たちの装備をチラチラと見てしまう。私服だが部分部分気になる物がある。全員靴は普通の靴ではない。


みんな一息ついて状況が変わるのを待つことにした。リゲルたちは住民番号やケガの有無、来た理由など登録している。

あー。警察が母さんに連絡必須だ。
母にバレたくないファクト。どうしようか悩んでいると、そこに見覚えのある小さな機械が落ちていた。

「ムギちゃ~ん。」
無視される。
「…ムギさん?ムギ様~。ムギ~。」
「あー!うっとうしいな!何!?」
「ここになんかあるんだけれど。コントローラーみたいなの!」
「あっそ!」
危険物だったらヤバいと思って報告したのに、うっとうしいと言われてまあいいかとその機械を拾う。見慣れた感じだと思ったら、ゲーム機『リーオ』の昔の機種のコントローラーである。子供が落としていったのか。ムギが相手にしてくれないので、観客席に座って、人生で何度も繰り出してきた対戦ゲームの技を無意識に打ち込んだ打ち込んだ。みんな憧れのコマンドである。
「雷龍破ーーエックス!!!」
懐かしい。これで小学生のころ、友達からコーラ500リットル10本勝ち取ったことがある。


ドーーん!

「へ?」
その時また爆音が鳴った。

コマ2号の中からだ。
ここにいた一同はもちろん、コマ1号のいるグラウンドの面々もこちらを見る。コマ2号は動くこともなく煙を出していた。

「また何かヤバいことが…」
青ざめる。
「………」
「お、お前…」
ムギは完全に引いている。
「え?俺のせい?雷龍破を打ち込んだだけで爆発ってある?これ、コマちゃんの何かのリモコンなの?」

「ファクトーー!ファクト!」
チコがバイクでまたこちらまで飛んでくる。
「大丈夫か?!!もう動かないか?」
「し、知りません!動くとか動かないとか!!!」
「放射物質のないコマでよかった。核弾頭とかも載せていなかった。」
おいおい、物騒なこと言わないでくれ。さすがに街でそれはない。警備会社のコマだろと、ファクトが青い顔をしていると、頭を撫でられる。
「冗談だ。まあ、散弾砲もよくはないな。残骸に触るなよ。」

先、技を叩きこんだコントローラーをチコが見る。ムギも心配そうだ。
「多分、内部に爆弾を乗せていたんだろう。そんなに強いのじゃない。煙幕だけだ。」
というようなことを言っている。
「それでも内部がやられたのは痛い…。超反対派だと、ニューロスにも容赦ないな。」
とも。

いやいや、先あなたそこに乗っていたじゃないですか。なぜそんなに冷静なのだ。タイミングが違えばお釈迦なのに。この人たちの感覚に震える。しかもこの超反対派は自分と同じゲームのファンなのか。

「もうすぐ警察が来る。解体班も。ファクトの事はこちらから話す。お前たち、何か聞かれたら全て包み隠さず答えるように。危ないからグラウンドのあっちに移ろう。」
チコがツィーたちに説明し、コマから離れた場所に誘導され、コマ2号にも男性メンバーたちが対応に移っていた。爆発物が出たため、慎重になっている。なお警察に関しては、自分の親が著名人のためワンクッション説明を置いた方がいいそうで、詳細はVEGAの方でうまく説明してくれるらしい。やはり彼らはVEGAだったのか。



グラウンドの、広く隠れるところのない場所に来てもう一度みんな一息つき、水ももらった。

「…あの、皆さん自衛団とかですか?」
やっとリゲルが話した。
現場は男性陣たちに任せて、チコとムギがファクトたちに対応する。
「…まあ、自衛団でもあるし、何だろうな。町の町長とか議員とか、自治会会長とかそんな感じ?」
チコが考えながら言う。攻撃性のあるコマを撃墜できる町長なんているのか。自衛団?

「え?何かの職員さんではないのですか?バイトの研修をしに来たんですけど。」
バイトと控えめにファクトが言うとチコが目を丸くする。
「バイト?」
水を飲みながら少し間を置いた。
「来いって言ったじゃないですか。この地域に。」

「…」
番長は少し悩んでいる。
「…ただ。」
「ただ?」

「ただ会いたかっただけだ。」

「は?」
「ただ、話をしてみたかっただけだ。」

はああ??

リゲルをはじめとする一同に白い目で見られ、ムギに至ってはまた舌打ちだ。やめてくれ。俺を見ないでくれ。横抱きされた記憶まで蘇って辛い…。就活案内じゃなかったのか。

「ナンパか?高校生はやばいだろ。」
ヴァーゴがつぶやく。チコは見方によっては学生にも見えるが、少なくとも高校生ではないだろう。こんな状況判断ができる大人な高校生は見たことがない。それにナンパではないと思い……たい。
「こいつのどこがいいんだ。」
ツィーが、どう考えてもバランスがおかしいだろ、と呆れた顔をして言う。

あ、呆れないでください。自分でもそう思われるのは分かっています。多分早とちりです、とファクトは萎縮する。

みんなの白い目が居た堪れない…。



呆れている周りを見渡して、落ち着くとチコが柔らかく笑った。
「いつの間にかこんなに成長していてうれしくて。」

ん?なんだ。そのセリフ。
数年越しに出会った親父や叔母かと言いたくなる。実際、自分の父も会うたびにそんなことを言っている。は?ますます分からない。やっぱり子供の頃の知り合いだろうか?

ファクトは混乱する。


「姉だよ。」

「は?」
「私は…、ファクトの……姉さんだよ…。」
「え?近所とかのお姉さんですか?」

「私も心星(しんぼし)だ。」

はい?

?!!!

感極まって言うチコに、固まる自分に固まる周囲。
ムギだけが嫌そうな顔で睨んでいる。


お、
お姉さんーーーー?!!!!


それは想像していなかった。



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登場人物紹介

心星ファクト(しんぼしファクト)主人公1


中間層地域、中央区蟹目の高2。両親がニューロス界の世界的博士。性格はのんびり。可もなく不可もなく何でもこなせるみんなのハシゴ要員。みんなが思うよりはあれこれ考えている。

アーツではCチーム。

チコ・ミルク・ディーパ 主人公2


ユラス人。ベガス総長。基本真面目。

ムギ 主人公3


チコやカストルのお手伝いをしている。少数民族のベガス移民。非常に身軽でなぜが武器や大型バイクも使いこなす。世の中の出来事には動じないが、時々いろいろ勘違いして恥ずかしくなるタイプ。

カウス・シュルタン・オミクロン


チコの隣にいる爽やかお兄さん。

背が高いが、柔らかい雰囲気なので威圧感は下町ズほどではない。

サルガス


中央区大房民。Bチームの下。アストロアーツ店長で。アーツのリーダーになる。みんなのまとめ役で世話役。

ヴァーゴ


中央区大房。旧型バイクRⅡをこよなく愛する、アストロアーツ整備屋。サルガスの友人。顔は怖いが性格は穏やかでおせっかい。彼女いない歴年齢のアーツ最年長。Cチーム。これといってとくに活躍はしない。

タウ


中央区大房。元大手の営業で、トップパルクールトレーサーでもある。Aクラストップの一人。オールマイティー型。性格は良くも悪くも普通の性格。イータの彼氏。

流星イオニア(リウシンイオニア)


中央区大房。住まい自体は隣町。アーツ唯一の有名大卒。Aチームタウに並ぶトップで、元大手の営業。オールマイティー型で、何でもできるがタウよりは自由奔放。自由に生きてきたのに、なぜかここで一途な男になってしまう。

キファ


自由大房民。Aチーム運動神経トップクラスで、性格がしょうもない。子供かと言われるが本人曰く、「大房ではクールな男でした」と。

六連タラゼド(ムツラタラゼド)


中央区大房。空手の黒帯。チーム。自分からはあまり話はしないが、聞けば答えてくれる。

リーブラ


中央区大房ギャル。Dチーム。元アストロアーツのアルバイト。誰にでも当たりがよく優しい。何でも楽しいタイプ。

ファルソン・ファイ


中央区大房。Dチーム。元バンドのおっかけ。メイクや洋裁もできて器用。萌えたいタイプで好きなことだけして生きたいタイプ。タラゼドの幼馴染。

サラサ・ニャート


東アジア人。VEGAベガスの総務で、アーツの隠れサポーター。

レサト


一見カッコいいが、性格がダルくてテキトウな藤湾高等学部の学生。

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