45 ジャンルが変わってしまう

文字数 3,139文字


エリスの祈祷で締めて解散。
祈ってばかりでめんどくせー、と思う大部分の下町ズに対して、ユラスの面々はまじめに共に祈りを捧げていた。動くとこも、途中目を開けることもしない。

すげーな。

ファイは多少の信仰心もあり、ゴスペルチームのメンバーなので他のメンバーよりは祈るが、それでもユラス人程ではない。でも他大陸のハレルヤ系でにぎやかな教会から来ているので、ユラスの堅苦しい信仰はちょっと物足りないらしい。

その後、リーダーを中心とする一部のメンバーたちは、高校生とそのまま話し合っている。



しかし意識高い系の横で、どうでもいい思いに囚われる、アーツCDチームの一部メンバー。
やたら秀麗な顔が数人いる向こうの陣営を眺め、ため息しか出ない。

アジア人でも小学校から身長170センチ超える男子は多少はいる。でもなんというか、ベガスの彼らは体幹が非常によく顔立ちも端麗な者が多い。代表者の多くは、南海にいた東ユラス人とは少し出身も違うらしい。
それに引けを取らない一部下町ズもうらやましいというか、感心してみてしまう。

向こうの面々と自分たちを比べると、明らかに世界が違った。
本気(まじ)、ジャンル変わっちゃうじゃん?」
「俺らがヤング○○漫画系なら、あっちは『ゴールデンファンタジックス』って感じだな。」


『ゴールデンファンタジックス』とは前時代初代ゲーム機から爆発的人気を誇り、150年以上シリーズを出しているRPG。絵が非常に美しく、他と一線を引くご長寿ゲームの1つだ。

ただし、初期数作のドット画から画面がポリゴンに進化した頃に、やたらイケメンを出してくるようになった。それ以来「それちゃう」「このゲームにそういうの求めていない」と賛否両論の中で展開してきた。初期ファンが、新規ファンに「これだからおっさんは…」と言われながらも、「君たちも20年後に同じ思いをする」と言い返す不毛な争いを100年以上も続けているのだ。
開発自体も20年前後の期間に巡り巡ってまた初期シリーズ風に帰結するという、少し長い周期だがファッション界みたいなことを繰り返している。


でもファクトはそんな彼らが好きだった。
その世界のパイオニア放出時代を一緒に熱狂できなかったことが悔しい。

0と1の世界で全てが表現できると知って、それを世に出した誰かたち。
8ビットの小ささに、世界中を熱狂させる広大なフィールドを描いた先駆者たち。

その中に詰められている色がたった数色で、雁字搦めの制限の中で作ったものだとは当時ほとんどの人が知らなかっただろう。そして、小さな動きや色を表現するために、どれほど夜を徹したのだろうか。その情熱はすさまじかったに違いない。

量子コンピューターの時代を越えても、開拓時代のドキドキ感は超えられないだろう。

ドット画、胸熱すぎる。


「水と油だな。」
最新ゲームに例えられているのに、ドット画を思い出して世界飛行をしていたファクトをジェイが現実世界に戻してしまう。
「つーか、ここのティーンと比べると、俺ら世紀末系じゃね?悪役の方。」
「一応現実世界の、世紀末は終わったんだけれど。」
アジアは一度、大国の小競り合い、膿出し、経済崩壊などで全体が総崩れし立て直しをしている。その時に統一も進んだのだ。

「いや、世紀末系は悪役集団でもせめてヴァーゴやタラゼド、アクバルぐらいの厚さがいるだろ。」
「俺らは悪役にもなれないのか。ストーリーの都合で死ぬ脇役、チンピラや民間人、ザコって感じか?」
「そうですね。僕は悪役にもなれない普通アニメの『その他通行人』です。末世漫画だと死ぬコマが最初で最後みたいな。」
ラムダが落ち込むので、ファクトが慰めるよう肩を叩いた。
「大丈夫。彼らもアンタレスでぬくぬく暮らしていれば、孫の代にはひょろひょろになる。」

180超えるタウたちがいなかったら、自分たちは少年漫画になりそうだ。俺らは青年漫画にもなれないと、切ないCDチームの諦め気味一部メンバーである。


そういえば、『ゴールデンファンタジックス』のファーコックをずっと放置していた。3か月も放置したのでチームから外されていそうだ。これは悔しい。無念すぎる。また一匹狼になるのか。


すると、どこからか声が響く。

『アホか。』

ファクトは前席の端の方で、ユラス側の聞き捨てならない悪口を拾った。

「あの人?」
「あ?なんだ?」
「あの人、俺らのこと『アホ』って言ってた。」
向こうを指さす。

近くにいた全員で目を凝らす。

いたいた。
代表者が話し合っているのに、面倒くさそうに頬をついて端に座っている、すこし尖った感じの奴がいる。見た目は薄い薄褐色肌の典型的なユラス人だ。

「機嫌が悪い時のチコさんみたいな態度ですね。」
ラムダが人差し指で久々のメガネを上げる。トレーニングに邪魔なので普段はコンタクトだ。
「唯一仲間になれそうな人物だな。」

すると、下町ズが彼を見ているのに向こうも気が付いた。

『マジバカな奴らだな…。小学生か。』

呆れてこちらを見た彼は、まじめじゃないチコさん系な感じだが、尖ったチコさんそのままに顔は良かった。
「顔で差をつけてきました…。」
「足の長さもな。」
「ムカつくな。」
そして、すごくバカにしつつ嫌そうな顔で、代表同士話し合っている講堂正面に向き直る。
横顔もきれいで、余計にムカつく。


そしてふとファクトは思う。

ユラスの青少年たちにはなぜか時々カーフのように東洋顔、東洋的色素の人が混ざっている。それも不思議なのだが、チコはどの系統とも顔が違う。

ユラスは大陸が広い。
様々な色をしているが、西南以外で共通することが、だいたい鼻が高めで彫りが深いことだ。

けれどチコの鼻は高くない。外部から帰還した混血のユラス人なのだろうか。一般市民とは違うので、両親も国を越えやすい立場にいるのかもしれない。
ユラス地域内部だったら紛争が多かったから人が流入することは少ないし、人種的にはそんなに混ざっていないだろう。近隣の他民族にしても地域的には似た顔立ちなので、チコのような顔立ちになることはあまりない気がする。他大陸の混血か、アジア寄りの地方出身者なのだろうか。

あの髪の色はどこから来るのだろう。優生の色ではない。
突然変異?


ファクトの世界に一瞬、荒野が駆け抜ける。
チコはどこから来たのか、

プラチナブロンドに象牙色の肌。

普段はカラーコンタクトで隠しているようだが、深い青緑に紫と二色が輝く瞳、アースアイ。


西方ユラス人の淡い髪とも質が違う。

戦場に行っていたとしたらケガなどで、もしかして義眼かもしれないし、髪も地毛ではないのかもしれない。鮮やかな色がなければ顔立ちは東洋人っぽい。

でも、もしサイボーグにしてもあらゆる箇所が人造でも、戦場に行ったり特殊任務を果たすような人間に、バイカラーや目立つ色を与えるだろうか?自分なら茶系にする。
戦地を降りて公で仕事をするようになったため、パフォーマンスカラーを与えたのか…。

ユラス人にも典型以外のタイプがたくさんいる。カウスも肌は象牙色で髪は茶系。でも何だろう。
このチコのしっくり来ない感。ユラス人と思って見れば見るほど、チコがつかめなかった。



「あの高校生にあからさまに呆れられたな。」
「でも、中心にいる人たちより、明らかにこっちを気に掛けている。」
「ファクトのせいじゃね?ミザル博士に似てるから。」
「『氣』を送ってみよう。」
1人が冗談で気を送ってみると、本当に気が付いたのかジェスチャーで「あっち行け」とされた。

やっぱり高校生にバカにされたのか。


でも、ジャンル違いの世界に、少しだけ安らぎを見付けた下町ズであった。
見た目はどう見ても相いれないが、何かが仲間だ。

その上、今日の昼飯は彼を連行していく選択肢しかない。と思う、恐れ知らずのファクトであった。


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登場人物紹介

心星ファクト(しんぼしファクト)主人公1


中間層地域、中央区蟹目の高2。両親がニューロス界の世界的博士。性格はのんびり。可もなく不可もなく何でもこなせるみんなのハシゴ要員。みんなが思うよりはあれこれ考えている。

アーツではCチーム。

チコ・ミルク・ディーパ 主人公2


ユラス人。ベガス総長。基本真面目。

ムギ 主人公3


チコやカストルのお手伝いをしている。少数民族のベガス移民。非常に身軽でなぜが武器や大型バイクも使いこなす。世の中の出来事には動じないが、時々いろいろ勘違いして恥ずかしくなるタイプ。

カウス・シュルタン・オミクロン


チコの隣にいる爽やかお兄さん。

背が高いが、柔らかい雰囲気なので威圧感は下町ズほどではない。

サルガス


中央区大房民。Bチームの下。アストロアーツ店長で。アーツのリーダーになる。みんなのまとめ役で世話役。

ヴァーゴ


中央区大房。旧型バイクRⅡをこよなく愛する、アストロアーツ整備屋。サルガスの友人。顔は怖いが性格は穏やかでおせっかい。彼女いない歴年齢のアーツ最年長。Cチーム。これといってとくに活躍はしない。

タウ


中央区大房。元大手の営業で、トップパルクールトレーサーでもある。Aクラストップの一人。オールマイティー型。性格は良くも悪くも普通の性格。イータの彼氏。

流星イオニア(リウシンイオニア)


中央区大房。住まい自体は隣町。アーツ唯一の有名大卒。Aチームタウに並ぶトップで、元大手の営業。オールマイティー型で、何でもできるがタウよりは自由奔放。自由に生きてきたのに、なぜかここで一途な男になってしまう。

キファ


自由大房民。Aチーム運動神経トップクラスで、性格がしょうもない。子供かと言われるが本人曰く、「大房ではクールな男でした」と。

六連タラゼド(ムツラタラゼド)


中央区大房。空手の黒帯。チーム。自分からはあまり話はしないが、聞けば答えてくれる。

リーブラ


中央区大房ギャル。Dチーム。元アストロアーツのアルバイト。誰にでも当たりがよく優しい。何でも楽しいタイプ。

ファルソン・ファイ


中央区大房。Dチーム。元バンドのおっかけ。メイクや洋裁もできて器用。萌えたいタイプで好きなことだけして生きたいタイプ。タラゼドの幼馴染。

サラサ・ニャート


東アジア人。VEGAベガスの総務で、アーツの隠れサポーター。

レサト


一見カッコいいが、性格がダルくてテキトウな藤湾高等学部の学生。

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