静かな食堂

文字数 588文字

 其処は、食堂の様だった。
 白い机の上には薄茶色の盆が有り、手元に見えるのは油揚げの浮かんだうどんの丼。
 向かいには、男性とも女性ともつかぬ、可愛らしい顔の人物が座っていた。
「――いつもうどん頼むよね」
「だって、合成のお米って、なんだか嫌で……」
 喋っているのは自分ではない。だが、その会話には妙な既知感(デジャヴ)があった。
「でも、お米なんて澱粉の塊みたいなものでしょ?」
「だけど、やっぱりお米はお米じゃないと、何か違うの」
「そうかなぁ」
 向かい合う人物はキチンライスを掬い上げる。
「まぁ、ボクも人の事言えないか……麺って、なんだか色々こねくり回された様な気がして、あんまり好きじゃないし」
「まるで逆ね」
「そうだね」
「でも……手打ちうどんの美味しさを知らないのは、ちょっと損してる気がするわ。それに……どうせ合成された物を食べるんだったら、此処の食堂のうどんの方がマシなのよ。此処のうどん、讃岐うどんみたいにコシがあって、御出汁は今ひとつだけど、食感は悪くないの」
「讃岐うどん……あれ、――って香川から来たんだっけ?」
「ううん。近いけど香川じゃないわ」
 食堂にしてはやけに静かで、人の気配は有るのに喧騒を感じられない不気味な空間。二人の会話だけが、人間の存在を示している様だった。
「それじゃ、四国の何処か?」
「ううん、四国じゃなくて――」
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