温かな腕の記憶

文字数 386文字

 彼女は優しい腕に抱かれていた。
 柔らかな温もりが脈打つ度に、体に響いてくるほど、強く。

 彼は言った、結ばれてはならないと分かっている、と。
 しかし、彼は続けた。それでも、運命が交わってしまった今、それを恨まずには居られない、と。
 そして続けた。きっと不幸にしてしまうだろう、それでも、傍に居たいと願う自分を、許して欲しいと。

 声として聞いたわけではなかった。
 しかし、言葉は確かに伝わっていた。

 顔を見たわけではなかった。
 それでも、不思議と、自分を抱く腕の主を、彼女は知っている様に感じていた。

 そして、その腕が、その後、どうなったのかも。

 ――仮令(たとえ)、君が許してくれたとしても。

 その先の言葉を、彼女は望まなかった。
 彼女もまた、同じ様に思っていたのだ。

 その言葉を遮ろうとして、声を出そうとした瞬間、景色が変わった。
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