パンドラの懺悔

文字数 290文字

 彼女の脳裏に焼き付いた景色。
 廃工場の煤けた床に、血飛沫を上げて落ちた腕と、血に濡れた刃。
 
 彼女が失った景色。
 無邪気な笑顔、苦悩を受け入れてくれた胸、知恵を貸してくれた唇。

 無論、全てが彼女の罪ではない。だが、彼女はそれを自らの罪とした。

 地上を離れ、風の吹き(すさ)ぶ場所で灰色の空を見上げる。
 最早、人の立ち入りを想定していない其処に、行く手を阻む物はない。
 見渡す景色はやたら遠く、俯瞰すると酷く小さい。

 ただひとつ、引き止めようとするかの如き向かい風に煽られぬ様、力を込める。
 最期の感覚は、混凝土(コンクリート)を蹴った堅い感触だった。
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